インビザラインで歯を動かす仕組みのコラムでもお話ししたように、歯に力を加えると移動する現象は、古代ギリシャの時代から知られていました。
「歯を動かすには、かなり強い力が必要なのでは?」とイメージされる方が多いかもしれませんが、そんなことはありません。唇や頬、舌などが無意識に歯を押すようなごくわずかな力でも、歯は簡単に動いてしまうのです。
今回は、お口周りの筋肉と、歯を動かす力の関係について解説します。歯の移動に必要な力の大きさや、歯並びを維持するために気をつけるべきポイントについてもお伝えしますので、ぜひご参考になさってください。
たった5gの力で歯は動く

歯を動かすにはどれくらいの力が必要なのでしょう?
実は、たった5gの力が歯に加わることで、歯は少しずつ動いていきます。5gといえば100円玉1枚(約4.8g)とほぼ同じ重さです。
矯正治療で歯に加える力は数g〜300g程度ですから、いかに小さな力で歯が動くかがおわかりいただけるでしょう。普段の生活の中で舌や唇、頬の筋肉が歯に触れているだけでも、歯を動かすのに十分といえます。
歯並びはお口周りの筋肉によって生じる力のバランスで決まる

歯の位置や歯の向きは、顎の大きさや、骨の位置関係だけで決まるわけではありません。歯並びに大きく関係しているのが唇や頬、舌などのお口の筋肉です。
歯科ではバクシネーターメカニズム(頬筋機能機構)と呼ばれる考え方があります。これは、唇や頬からの外側からの力と、舌からの内側からの力のバランスが取れた位置に並ぶという理論です。
| 外側からの力 | 唇や頬の筋肉が歯を内側へ押さえる |
|---|---|
| 内側からの力 | 舌が歯を外側へ押し出す |
もし、何らかの理由で、舌が押し出す力の方が強ければ歯は外側に向かって傾きますし、逆に唇や頬の押さえ込む力の方が強ければ、歯は内側に傾くということです。
お口の筋肉のバランスを崩す5つの習慣
お口に関係する癖があるだけで、歯並びは悪くなっていきます。特にお子さんは無意識に行っている場合が多いため、注意が必要です。ここでは、歯並びに悪影響を及ぼしやすい代表的な習慣を紹介します。
舌癖(ぜつへき)

舌癖(ぜつへき)は、舌に関わるさまざまな癖の総称のことを指します。舌圧(舌の押す力)が歯並びに与える影響とは?のコラムでもお伝えしたように、舌の位置や力のかかり具合は、歯並びを左右する要因になるため、決して軽視してはいけません。
特に悪影響が出やすいのは、舌の位置が下がっている状態(低位舌:ていいぜつ※)の場合です。
本来、舌が正しい位置にあれば、舌先は上顎の前歯の少し後ろにあるスポットと呼ばれるふくらみに軽く触れ、舌全体は上顎に密着している状態になります。

しかし、舌が下がって下顎の前歯の裏側にもたれかかっていたり、飲み込むたびに舌で前歯を押し出す癖があったりすると、内側から歯に過剰な力がかかるようになり、出っ歯(上顎前突:じょうがくぜんとつ)や受け口(下顎前突:かがくぜんとつ)、開咬(かいこう:上下の前歯が噛み合わない歯並び)といった歯列不正の原因になることがあります。
また、お子さんが口をポカンと開けていることが多い場合、舌の位置が下がっている可能性がありますので、保護者の方は一度チェックしてみましょう。
ほかにも、お子さんの歯並びに影響するお口周りの癖については、お子さんの歯並びに影響する癖とは?のコラムで解説しておりますので、気になる方はご参考になさってください。
(※)低位舌について詳しくは、提携医院である札幌のポラリス歯科の滑舌が悪い?それって低位舌(ていいぜつ)が原因かものコラムをご参照ください。
口呼吸

ヒトは鼻呼吸が基本で、口呼吸は正しい呼吸方法ではありません。
先ほどお伝えしたように、舌全体が上顎に密着する正常な位置にあると、口で息をしようとしても舌が気道を塞ぎ、口呼吸はしにくくなります。
言い方を変えると、口呼吸をしているということは、舌は自然と下がった位置にあり、上顎を内側から支える力も失われることになってしまいます。
片側噛み

食事のときに右側だけ・左側だけなど片側ばかりで噛む癖はありませんか?
片側噛みが続くと、頻繁に使う側の咀嚼筋が発達し、反対側との筋力差が生まれます。すると、左右の歯にかかる力が不均等になり、顎の成長バランスが崩れたり、歯並びが左右非対称になったりすることがあります。
頰づえ

机に座って考え事をするときなど、無意識のうちに頰づえをつく方はいらっしゃいませんか?
頬づえは、片側の顎に持続的に外力を加える行為です。例えば右手で頬づえをつくと、下顎は左側にずれ、右側の顎の骨には圧迫がかかります。
頰づえをつく習慣も、長期にわたって続けていると、歯並びが変化する原因になります。
うつ伏せ寝・横向き寝

横向きやうつ伏せで寝ると、枕や布団からの圧力が片側の顎にかかり続けます。特に成長期のお子さんの場合、一晩で数時間にわたって同じ方向から力が加わることになり、顎の骨格の成長に左右差が出る可能性があるため、注意が必要です。
睡眠時の理想的な姿勢は仰向けです。仰向けなら、重力がお口に均等に作用し、偏った力がかかりません。体に合った枕を使用して、きちんと仰向けに寝るようにしましょう。
歯並びを守る3つのポイント
ここからは、歯並びを守るために押さえておきたい3つのポイントをご紹介します。
お口の筋肉のバランスを崩す癖に気づく

まずはご自身やお子さんのお口の癖に気づくことが大切です。これらの癖は、無意識のうちに身についてしまっていることが多いため、上述のような習慣がないか、セルフチェックしてみましょう。
- 舌の位置
- 口呼吸
- 噛み方・姿勢
なかなか意識に定着しづらい場合は、紙や付箋に書いて貼っておいたり、スマートフォンのメモやリマインダーなどを活用するのも有効です。
お口の筋肉を正しくトレーニングする

癖に気づいたら、お口の筋肉の使い方そのものを改善していきましょう。以前のコラムでMFT(口腔筋機能療法)をご紹介しましたが、自宅ですぐに始められるトレーニングとして知られているものとして、あいうべ体操があります。
「あー」「いー」「うー」「べー」と大きく口を動かすことで、口周りの筋肉と舌の筋力を効率よく鍛えることができます。1日30回を目安に、食後や入浴時など決まったタイミングで行うと習慣化しやすくなります。
早めに歯科医師に相談する

癖が原因で歯並びがすでに悪くなっている場合や、自分だけの努力では改善が難しい場合は、歯科医師に相談することをおすすめします。
お口の筋肉の癖は、長く続くほど歯並びへの影響が蓄積していくので、きちんと対処することが大切です。
お子さんの場合、きれいな歯並びをつくるお子様のための矯正(小児矯正)のコラムでもお話ししたとおり、顎が成長している時期に対処すれば、比較的短期間で改善が見込めるでしょう。
しかし、大人の方の場合(※)や、癖が定着してから矯正を始めると、治療期間が長引いたり、矯正治療後の後戻りが出やすくなることもあるため、早めにお口の筋肉のバランスや癖について相談できる歯科医院で診断してもらうようにしましょう。

(※)もちろん、大人の方が矯正治療を行えないわけではありません。お子さんの矯正治療のように顎の成長を利用することはできませんが、自己管理ができる大人の方ならではのメリットがあります。詳しくは下記のコラムをご参考になさってください。
お口の筋肉のバランスが気になる方も町田歯科へご相談を

お伝えしたように、歯はごくわずかな力で動いてしまうため、舌の癖や口呼吸、片側噛みや頬づえといった習慣が、お口の筋肉のバランスを崩し、歯並びを悪化させる原因となります。
なるべくこれらの歯並びに悪影響を及ぼす習慣を止めて、お口の筋肉のバランスを正常に保てるようにするのが理想ですが、長年染み付いた癖を自己流で治すことは困難です。歯並びの悪化は、虫歯や歯周病のリスクを高めることにもつながりますので、少しでも気になったら早めに歯科医院へ相談しましょう。
町田歯科では、現状をしっかりと把握し、日本矯正歯科学会の認定医が歯並びを正常に保つための適切なアドバイスを行います。「最近、歯並びが変わってきた気がする」「自分や子どものお口の癖が気になる」という方は、町田駅すぐそばの町田歯科へ、お気軽にご相談ください。








