従来の歯科治療では、悪くなった部分を削り取る方法が主流でした。しかし近年、ナノテクノロジーの進化により、初期虫歯であれば削らずに修復できる可能性が出てきています。
その鍵となるのがナノ粒子ハイドロキシアパタイトです。超微細なナノ粒子を活用することで、歯の傷を埋め、再石灰化を促す効果が期待されています。
まだ研究・応用段階ではありますが、初期虫歯であれば削らずに治療できる未来が見えてきました。今回は、そんなナノ粒子を使った、削らない虫歯治療について解説します。
削らない虫歯治療が注目されている理由

町田歯科の虫歯治療では、極力削らないことをモットーとしていますが、一般的に言えば、従来の虫歯治療は、虫歯部分を削り、詰めものや被せもので補う方法が中心といえます。
しかし、削った歯は元に戻らないという根本的な問題があることを忘れてはいけません。さらに、詰めものや被せものは永久に使えるわけではなく、経年劣化によってすき間ができたり、外れたりすることで、再び虫歯になる(二次カリエス)ことも珍しくありません。
そして、再治療を繰り返すたびに、削る量は増え、歯はどんどん小さく、弱くなっていきます。
このように削っては修復し続けるサイクルを繰り返せば、最終的には歯を失うことになりかねません。だからこそ、『最初の段階でいかに削らないか』が、歯の寿命を決定づけるのです。
虫歯を削らずに済むようになるのか?
「削らないと言っても、本当にそれで大丈夫なの?」と疑問に思うかもしれません。結論から申し上げると、初期虫歯の段階であれば、歯を削らずに済む可能性が高くなると言えます。
初期虫歯なら削らずに対応できる可能性が高い

虫歯治療ページでも解説しているとおり、虫歯は、口の中にいる細菌が糖分をエサにして酸を作り出し、その酸によって歯が溶かされてしまう病気のことです。
ただ、虫歯は突然穴が開くわけではなく、初期の段階では、歯の表面からミネラルが溶け出す脱灰(だっかい)が起こります。この状態を一般に初期虫歯と呼びます。
初期虫歯の段階は歯に穴は開いておらず、見た目は白く濁ったように見えたり、透明感がなくなったりする程度の変化です。

この初期虫歯の段階であれば、唾液やフッ素(※)の働きによって再石灰化が期待でき、削らずに治せる可能性があります。再石灰化とは、唾液に含まれるカルシウムやリンといったミネラル成分が、溶け出した歯の表面に再び沈着して修復する現象のことです。
今回取り上げるナノ粒子ハイドロキシアパタイトは、歯によく浸透し、再石灰化を促進する作用もあるため、初期虫歯の治療に対して、より効果が見込めるのではないかと考えられています。
(※)唾液やフッ素の働き・効果についてはお口を潤すだけじゃない!唾液の持つすごい働きとは?や、フッ化物(フッ素)の歴史のコラムで詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。
ナノ粒子ハイドロキシアパタイトの効果

ハイドロキシアパタイトは、歯や骨を構成する主成分です。私たちの歯のエナメル質は約97%、象牙質でも約70%がハイドロキシアパタイトでできています。
このハイドロキシアパタイトをナノサイズまで細かくしたものがナノ粒子ハイドロキシアパタイトです。歯と同じ成分でできているため、身体への安全性が高く、歯の表面に自然に馴染むという特徴があります。
微細なナノ粒子が歯に浸透し、歯質を強化

「ナノ粒子」と聞いてもどれくらい小さいのかイメージしにくい方も多いかもしれません。ナノとは10億分の1を表す単位で、1ナノメートルは0.000001mm(100万分の1ミリ)という極めて小さなサイズです。
参考までに申し上げると、髪の毛の太さは約8万ナノメートル、インフルエンザウイルスでも約100ナノメートル程度です。ナノ粒子ハイドロキシアパタイトの大きさは数十ナノメートルと、ウイルスよりもさらに小さいサイズです。
クラックトゥース症候群のコラムでお話ししましたが、歯の表面には、肉眼では見えない無数の小さな傷や凹凸があります。通常の粒子では入り込めないような、この極小の隙間にも、ナノサイズの粒子であれば浸透してくれるのです。
この特性を活かし、ハイドロキシアパタイトナノ粒子を歯の表面に付着させ、ミクロな傷を補修して歯質を強化することができると考えられています。
象牙質まで進行した虫歯は従来の治療が必要

ナノ粒子ハイドロキシアパタイトが効果を発揮するのは、あくまで歯の表面の修復までです。
もし、虫歯がエナメル質を突破し、その下の象牙質まで達して穴が開いてしまった場合、ナノ粒子だけで穴を塞ぐことはできません。この段階まで進行してしまうと、やはり汚染された部分を削って取り除く必要が出てきます。
つまり、ナノ粒子は歯を直接「治す」というより、虫歯になりにくい環境を整える役割を担います。初期虫歯の進行を抑制したり、再石灰化を促進することで、歯をより健康に保てるようになると期待されているのです。
将来の虫歯治療はどう変わるのか?
ナノテクノロジーの進化により、これからの歯科治療は変わりつつあります。
現在の歯科医療の主流は、MI(Minimal Intervention:最小限の侵襲)を重視する考え方です。「できるだけ歯を削らない」「できるだけ神経を抜かない」「生まれ持った歯を大切にする」。ナノ粒子技術は、このMI治療を後押ししてくれるでしょう。
将来的には、ナノ粒子を活用することで、削る量を最小限に抑えつつ、歯質を強化・管理する治療が一般的になる可能性もあります。
歯科治療への心理的ハードルが下がる

町田歯科は徹底して痛みのない治療を心がけていますが、もし、これらの新技術によって、「削らない」「痛くない」治療がより広く一般的になれば、多くの方が感じる歯科治療への恐怖心や躊躇がなくなっていくはずです。
結果として、定期検診に通う人が増え、予防歯科によって早期発見・早期対応が当たり前になれば、虫歯で歯を失う人は確実に減っていくでしょう。
今からできる「削らない虫歯治療」への備え
ナノ粒子ハイドロキシアパタイトの活用は、明るい未来を感じさせてくれるものですが、お伝えしたように、現在はまだ研究段階でもあります。まずは今できることを着実に実践することが大切です。
初期虫歯を防ぐ生活習慣
削らない虫歯治療の恩恵を受けるためには、そもそも虫歯を初期段階で食い止めることが大切です。日常生活で心がけたいポイントをご紹介します。
正しいブラッシング

毎食後にきちんと歯磨きをして歯垢を落とすことが基本です。歯と歯の間はデンタルフロスや歯間ブラシを活用しましょう。
唾液の分泌を促す

お口を潤すだけじゃない!唾液の持つすごい働きとは?のコラムでお話ししたとおり、唾液には再石灰化を促す働きがあります。よく噛んで食べる、こまめに水分を補給する、口呼吸を避けるといった習慣が大切です。
糖分の摂取を控える
虫歯菌は糖分をエサにして酸を作り出します。甘いお菓子やジュースの摂り過ぎは控えるようにしましょう。
だらだら食べ・飲みを避ける
食事や間食のたびに、口の中は酸性に傾き、歯の脱灰が起こります。長時間にわたってだらだらと飲食を続けるのは、歯に悪影響があります。なるべく規則正しい食事時間を守り、食事と食事の間隔を空け、口の中を中性に戻す時間を確保しましょう。
ナノ粒子を活かすためのポイント

ハイドロキシアパタイトナノ粒子配合のデンタルケア用品は、毎日のセルフケアの質を高める補助として活用するのがポイントになります。
製品を選ぶ際は、パッケージの薬効成分(薬用成分)の欄を確認してください。薬用ハイドロキシアパタイト(※)と記載されていれば、厚生労働省に効果が承認された成分です。
また、歯科医院専売品は、市販品と比べて薬用ハイドロキシアパタイトの配合量が多い傾向にあります。これらとフッ素配合の製品と併用することで、再石灰化の効果をさらに高めることができます。
歯のクリーニングページでお話ししているように、町田歯科では、患者さん一人ひとりの歯の状態にぴったりの歯磨き粉もお伝えいたしますので、お気軽にご相談ください。
(※)薬用ハイドロキシアパタイトは、サンギ社がハイドロキシアパタイトをナノ粒子化して開発し、1993年に厚生労働省から薬用成分として認可された成分。
定期検診が削らない治療への最短ルート

これまでも町田歯科ブログでは、セルフケアとプロフェッショナルケアの併用が大切とお伝えしてきましたが、やはりセルフケアだけでなく、歯科医院でのプロフェッショナルケアを忘れてはいけません。
定期的な歯科検診は削らずに済む虫歯治療への最短ルートといえます。3~6ヶ月に一度の検診を習慣にすることで、初期段階で虫歯を発見・対処できるようになれば、削らずに対処できる可能性を高めることにつながります。
「削る治療」から「守る治療」へ

ナノ粒子を活用した虫歯治療は、まだ研究段階の部分もありますが、エナメル質にとどまる初期の虫歯であれば、削らずに修復できる可能性を示唆してくれています。
もちろん、お伝えしたように、進行して穴が開いてしまった虫歯(象牙質まで達したもの)には対応できないため、過信は禁物ですが、ナノ粒子のような新たな技術により、虫歯治療は「削る治療」から「守る治療」へと進化しているのは間違いありません。
そんな進化の恩恵を受けるためにも、定期検診による早期発見と毎日の正しいセルフケアを組み合わせることが大切です。薬用ハイドロキシアパタイト配合のケア用品などを上手に取り入れながら、定期検診を受け、将来にわたって自分の歯を守り続けていきましょう。
「虫歯になっていないかチェックしてほしい」と思う方や、「自分に合った予防法を知りたい」とお考えの方は、町田駅すぐそばの町田歯科へお気軽にご相談ください。
参考文献
- Wierichs, R. J., Wolf, T. G., Campus, G., et al. (2022).
Efficacy of nano-hydroxyapatite on caries prevention: A systematic review and meta-analysis.
Clinical Oral Investigations, 26, 3373–3381. - Nano-hydroxyapatite (nHAp) in the remineralization of early dental caries: A scoping review. (2022).Journal of Dentistry.
- Nanoparticles in caries prevention: A review. (2021).Journal of Global Oral Health.
- サンギ株式会社. (n.d.).薬用ハイドロキシアパタイト(mHAP)の作用機序.
- (n.d.).歯科医師向け:薬用ハイドロキシアパタイトのう蝕予防効果.
- 菊地 信之. (2008).軟化根管象牙質の再硬化に関する基礎的研究.日本再生歯科医学会誌, 5(2), 117–123.








