歯のメインテナンス

フッ化物(フッ素)の歴史

皆さんは、虫歯予防に効果的な物質というと何を思い浮かべますか?

様々な歯磨き粉やマウスウォッシュにも含まれていますし、やはり多くの方がフッ素(フッ化物)を連想するのではないでしょうか。

たしかに町田歯科では、歯のメインテナンス予防歯科の一環としてフッ素塗布を行いますし、これまでのコラムでもフッ素(フッ化物)について取り上げてきました。

虫歯予防に効果的なフッ化物

虫歯の菌はいつから口に住み着くの?のコラムで解説していますが、歯にフッ素を塗布すると、歯のエナメル質がフルオロアパタイトに変化し、虫歯になりにくくなり、再石灰化も促してくれます。

フッ素(フッ化物)は虫歯予防にとても効果的なのですが、どうしてフッ化物が虫歯予防に利用されるようになったのかは、ご存知ない方も多いかと思います。

そこで今回は、虫歯予防におけるフッ素(フッ化物)の歴史についてお話しします。

斑状歯(はんじょうし)と虫歯の関係性

斑状歯の発見

フッ化物による虫歯予防効果の発見のきっかけとなったのが、斑状歯(はんじょうし)という歯の色素沈着症です。

欧米で発見された歯の色調異常

斑状歯の発見

今から100年以上前の1900年代初頭、ヨーロッパやアメリカで、歯の色調異常が相次いで発見されることがありました。

最初は1901年のイタリアのナポリです。ナポリからアメリカに移住してきた人の間で、歯に茶色っぽい色素沈着が多く見られることを、イーガーという歯科医師が発見しました。

また、その数年後の1908年、マッケイという歯科医師がアメリカのコロラドスプリングスで、ナポリからの移住者と同じような歯の色素沈着症に気づきます。

マッケイは、この色素沈着症をコロラド褐色歯と命名し、以降、アメリカのアイダホ州や先住民などにも、歯の色素沈着が見つかるようになります。そして、このような色素沈着症を認めた歯を斑状歯と呼ぶようになりました。

斑状歯の実際の写真は、口腔病理の専門サイトで見ることができます。興味のある方はご参照ください。

斑状歯には虫歯が少ない

歯に褐色の色素沈着というと、あまり良い印象は持ちづらいものですが、斑状歯の人々を詳しく調べてみると、驚くべきことに、虫歯がほとんどないことがわかりました。

実際、先ほどご紹介したマッケイ歯科医師は、1916年に、コロラド褐色歯に虫歯が極めて少ないことを報告しています。

斑状歯に虫歯が少ないということがわかってきたものの、「なぜ斑状歯が起こるのか」、そして「なぜ斑状歯に虫歯がないのか」といった点については、当時は判明しませんでした。

斑状歯と水の関係

斑状歯と水の関係

斑状歯の原因がなかなかわからないまま、しばらく時が経ちます。

しかし、マッケイ医師の発表から約10年後の1928年、イタリアのナポリで水源が変更された地域があり、水源が変わってから斑状歯の人が現れなくなったという報告が出てきます。また、アイダホ州で水源を変えたら、斑状歯がなくなったという地域も現れました。

どうやら「斑状歯の原因は、日常生活で使っている水の成分にあるのかもしれない」ということが見えてきました。とはいえ、1900年初頭の技術では、水に含まれる成分の特定が困難だったようで、どの物質が影響しているのかは、まだわからない状況です。

斑状歯の原因の特定

斑状歯の原因の特定

1930年代に入ると、水の成分を特定する技術が発達してきます。そこで多くの化学者が、斑状歯が見られる地域の水質を調べてみたところ、斑状歯が見られない地域の水と比べて、フッ化物の濃度が高いことが判明しました。

これにより、斑状歯の原因として、フッ化物の濃度が関係していると考えられるようになります。そして、動物に高濃度のフッ化物を含む水を飲ませて育てると、斑状歯が発生したのです。

動物実験での裏付けも得られたため、ついに斑状歯の原因はフッ化物であると認められることになりました。斑状歯の発見から30年経って、ようやく原因が特定されたということです。

フッ化物の虫歯予防効果

お伝えしてきたとおり、斑状歯に虫歯が少ないことから、フッ化物には虫歯予防効果があることがわかり、今度はフッ化物が研究されるようになってきます。

フッ化物の最適な濃度

フッ化物の最適な濃度

フッ化物に虫歯予防効果があることはわかりましたが、いくら虫歯にならないからといって、歯が褐色になるのは困ります。そこで「フッ化物の適正な濃度がどれくらいなのか」を見極める研究が始まりました。

アメリカでの大規模調査

1938年から1942年にかけて、アメリカで水道水のフッ素濃度と斑状歯、虫歯の関係が調査されました。ちょうど第二次世界大戦が始まり、ドイツが攻勢をかけ、ハワイの真珠湾ではアメリカ海軍が大損害を受けた時期です。国難とも言える時期に、虫歯予防の研究がされているとは驚きですね。

この大規模調査の結果、飲み水のフッ化物濃度が1ppmの時に、斑状歯が起こりにくく、虫歯にもなりにくいことが判明しました。

アメリカとカナダで水道水のフッ化物濃度を1ppmに調整し、15年間の追跡調査が行われましたが、斑状歯は発生せず、虫歯予防率は50~70%に達したそうです。

FDIやWHOも認めたフッ化物の効果

FDIやWHOも認めたフッ化物の効果

アメリカでの斑状歯や虫歯予防の研究は、国際歯科連盟(FDI)世界保健機関(WHO)でも認められ、虫歯予防のために、フッ化物が世界中で広く使われるようになりました。

水道水フロリデーション

現在、世界の多くの国で、経済的に、そして安全に虫歯を予防する方法として、水道水にフッ化物が添加されるようになっており、これを水道水フロリデーションといいます。

水道水に約1ppmの適切な濃度のフッ化物を配合することで、意識しなくても自然に虫歯が予防できるようになっているわけです。

日本のフッ化物使用の現状

日本での水道水のフッ化物添加

日本での水道水のフッ化物添加は行われていない

では日本のフッ化物使用の状況はどうなっているのでしょう?自然に虫歯予防ができるならありがたいですし、皆さんも気になりますよね。

世界の多くの国で行われている水道水のフッ化物添加ですが、残念ながら日本では全く行われていません。

ただ、今まで水道水のフッ化物添加を全くしたことがないかというと、そうではありません。60年以上前に、京都の山科で水道水にフッ化物を添加したことがあったのですが、それ以降、フッ化物を水道水に添加する自治体はなくなってしまいました。

日本でフッ化物を利用するなら

フッ化物配合の歯磨き粉、フッ化物配合の洗口液

残念ですが、日本では水道水を通してフッ化物を利用することは期待できません。フッ化物を使うなら、フッ化物配合の歯磨き粉、フッ化物配合の洗口液、フッ化物の歯への塗布に限られます。

この中では、フッ化物配合歯磨き剤を使うのが最も簡単な方法です。今までは950ppmまででしたが、2017年にようやく世界水準の1450ppmというフッ化物濃度の歯磨き粉が認められました。

これらはAmazonなどの通販サイトでも購入できますし、歯のクリーニングのページでも解説しているとおり、町田歯科でどんな歯磨き粉が良いかご相談いただいても構いません。

歩みは遅いながらも、日本でも少しずつフッ化物の利用範囲が広がっていますね。

歯科医院でのフッ素塗布も忘れずに

歯科医院でのフッ素塗布も忘れずに

今回は、虫歯予防でのフッ化物利用の歴史についてお話ししました。斑状歯の発見から、フッ化物に虫歯予防の効果があることが判明し、100年の時が流れましたが、現在ではフッ化物は虫歯予防に欠かせなくなっています。

世界的には水道水にフッ化物を添加して虫歯予防を図っていますが、日本では中断されています。しかし、長らく世界標準を下回っていた歯磨き粉のフッ化物濃度が、数年前、世界水準にまで引き上げられました。

そう考えると、国や地方自治体が重い腰を上げて、水道水のフッ化物添加を進める日も遠くないかもしれません。

もちろん、それはいつになるかはわかりません。やはり日頃から、歯の健康を保つために予防を心掛けるのが何より大切です。

ご自身でフッ素が配合された歯磨き粉や洗口液を使うのを基本としつつも、定期的に歯科医院を訪れ、歯の状態をチェックしてもらい、フッ素を塗布してもらうのが良いでしょう。日常のセルフケアと、歯科医院で行うプロフェショナルケアを併用し、虫歯予防に取り組んでください。

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