以前、歯肉退縮(しにくたいしゅく)の放置は危険のコラムで、歯茎が痩せたり、下がったりする歯肉退縮について解説しました。
このような症状とは逆に、歯茎が腫れて痛くなる状態のことを歯肉腫脹(しにくしゅちょう)といいます。
歯肉腫脹も歯茎に生じる異変ですが、放置するとお口の健康を損ねることもあるので、注意が必要です。今回は、歯肉腫脹の原因やその対処法について紹介します。
歯肉腫脹の症状
歯肉腫脹とは、歯肉が炎症などによって腫れ、通常よりも大きくなってしまう状態のことです。歯肉退縮とは逆に、歯と歯の間の隙間が埋まってしまったり、歯の一部が歯肉に覆われて見えなくなったりすることがあります。
歯肉腫脹の原因は?
歯肉腫脹を引き起こす原因はいくつかありますが、主なものは以下のとおりです。
歯肉の炎症
毎日歯を磨いていても、磨き残しがあると歯の表面にプラーク(歯垢)と呼ばれる白いカスがたまります。プラークは細菌の塊で、中には歯周病を引き起こすものも潜んでいます。
プラークがたまると、歯周病の原因菌が毒素を出し、歯肉を傷め、炎症を引き起こしてしまいます。その結果、歯肉が腫れることがあります。
歯肉の化膿
歯周病菌がお口の中に存在していても、私たちの体に備わっている免疫力によって、普段は抑えられています。
ところが、体調不良などにより免疫力が下がると、歯周病菌が活発になって歯肉の炎症が悪化するようになり、さらに進行すると、歯肉の中に膿がたまってしまう化膿が起こることがあります。
化膿すると、歯肉は赤く腫れ上がり、ズキズキとした痛みを感じることが多くなります。また、歯周病以外にも、歯の根っこが割れてしまう歯根破折(しこんはせつ)によって化膿することもあります。
薬の副作用
薬の副作用によって歯肉が腫れることもあります。
特に、高血圧の治療に使われるカルシウム拮抗薬は、歯肉の腫れを引き起こしやすいので注意が必要です。その他にも、一部のてんかんの薬に歯肉が腫れる副作用があります。
口呼吸
口で呼吸すると、唾液が蒸発し、お口の中が乾燥しやすくなります。
お口を潤すだけじゃない!唾液の持つすごい働きとは?のコラムでご説明したように、唾液には、お口の粘膜を守り、細菌の活動性を下げる働きなどがあるので、口呼吸で唾液が減ると、歯肉が傷つきやすく、腫れや炎症を起こしやすくなってしまうのです。
歯肉腫脹で起こる問題
歯磨きが難しくなる
歯肉が腫れると歯の境目がプクッと膨らんで、壁のようになります。歯ブラシの毛先が届きにくくなるだけでなく、ちょっと触れただけでも激痛が走ったり、出血することもあります。
このような状態になると、歯磨きがしづらくなってきます。そして歯磨きしにくくなることで、プラークがたまったままになりやすく、さらに歯肉が腫れ、ますます磨きにくくなるという悪循環に陥ってしまいます。
全身への影響
歯肉の腫れを放っておくと、歯周病菌は血管を通じて全身に広がり、以下に挙げるような様々な病気を悪化させる可能性があることが明らかになっています。「歯茎の症状だから…」と軽んじるのは良くありません。注意してください。
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
- 糖尿病
- 肺炎
- 早産
- 低体重児出産 など
見た目の悪さ
健康的な歯肉は、薄いピンク色で引き締まっていますが、腫れてしまうと赤黒く変色し、ブヨブヨと膨らんでしまうこともあります。
奥歯の歯肉なら、腫れたとしても見えにくいのですが、前歯の歯肉が腫れると目立ってしまうので、不健康に見えてしまいます。
歯肉腫脹への対処法
プラークコントロール
先ほどもお伝えしたように、歯周病菌は、歯についているプラークの中にいます。そのため、歯周病治療では、プラークを取り除くプラークコントロールを徹底して行います。
毎日の歯磨きに加え、歯科医院で定期的なクリーニングを行い、プラークを溜めないようにすることが大切です。歯科医院では、普段の生活の中で効果的にプラークコントロールができるように、歯磨き指導(TBI:Tooth Brushing Instruction)も行います。
歯石の除去
歯磨きで落としきれないプラーク(歯垢)は、時間が経つと唾液中のカルシウムと結合して、歯石になってしまいます。歯石もまた、歯肉が炎症を引き起こす原因の一つです。
歯石は、日々のセルフケアによる歯磨きでは取り除けないので、歯科医院でのPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)により、スケーラーという専用機器を使って取り除きます。
このように、歯垢や歯石を溜めないようにするには、日々の歯磨きによるセルフケアと、歯科医院でのプロフェッショナルケアを併用することが大切です。詳しくは、歯を長持ちさせるセルフケアとプロフェッショナルケアのコラムでも解説しておりますので、併せてご参照ください。
薬物治療
腫れや痛みが強い場合は、抗菌薬(抗生物質)を使って歯周病菌の増殖を抑え、炎症を鎮める治療が行われます。内服薬だけでなく、塗り薬や歯肉の中に直接注入する薬など、症状に合わせてさまざまなタイプの薬が使われます。
歯肉切除術
歯周病菌などの細菌が原因ではなく、口呼吸などの慢性的な刺激によって歯肉が腫れている場合、腫れた歯肉を外科的に取り除く歯周外科治療を行うこともあります。
手術自体は局所麻酔下で行われ、入院の必要はありません。術後の腫れや痛みは、数日間続く場合がありますが、適切なケアと経過観察によって、健康な歯肉を目指せます。
歯肉に違和感を覚えたら、早めに歯科医院の受診を
今回お伝えしたように、歯肉が腫れたり、痛んだりするのは歯肉腫脹が原因かもしれません。
歯肉腫脹は、歯周病以外にも薬の副作用などが原因となる場合もありますので、もし、歯肉の腫れが気になる場合は、自己判断はせずに、早めに歯科医院を受診しましょう。
町田歯科は、通常の歯科治療だけでなく、患者さんのお口の健康を保つため、総合的な口腔ケアをご提供することを大切にしています。歯肉の腫れが気になる方や、お口のことでお悩みの方も、町田歯科にお気軽にご相談ください。