矯正歯科では、年齢や症状に合わせた適切な矯正装置を使い、歯並びや骨格などを整えていきます。このため、様々な矯正装置が開発されています。
その中に、床矯正装置(しょうきょうせいそうち)と機能的矯正装置があります。ちょっと専門的な用語ですが、冒頭の写真のような装置をイメージしていただければ大丈夫です。主にお子さん向けの矯正装置のため、小児矯正をお考えの方は見たことがあるかもしれませんね。
どちらも取り外しタイプの矯正装置(可撤式装置:かてつしきそうち)ですが、両者には矯正力の働き方や目的などに違いがあり、種類も様々です。今回は、そんな床矯正装置と機能的矯正装置についてご紹介します。
床矯正装置と機能的矯正装置って?
まず、床矯正装置と機能的矯正装置について大まかに押さえておきましょう。両者とも、おおよその素材や構成は似ている点があります。
床矯正装置とは
床矯正装置は、取り外し可能な矯正装置で、噛み合わせの力を矯正力として利用します。床矯正装置である拡大床(かくだいしょう)についてはきれいな歯並びをつくるお子様のための矯正(小児矯正)のコラムでも解説していますので、併せてご参照ください。
床矯正装置は、口腔内を覆うレジンというプラスチックの部分と、歯に合わせる金属製のワイヤーで作られています。目的に応じて、プラスチック部分の形状に違いがあります。
機能的矯正装置とは
機能的矯正装置とは、お口周囲の筋肉の働きなどを矯正力として利用し、顎の骨格や歯並びを整える矯正装置です。
床矯正装置と同じく、レジンと金属製のワイヤーで作られています。上下一体型の大きなタイプもあれば、ほとんどワイヤーだけのタイプもあります。
床矯正装置の種類
歯並びや骨格の状態は、人それぞれ異なります。治療法も一人一人に合わせる必要があるので、床矯正装置と機能的矯正装置も、いくつかのタイプが開発されています。
まずは床矯正装置からご紹介しましょう。
咬合挙上板(こうごうきょじょうばん)
咬合挙上板は上顎の歯に装着する床矯正装置で、バイトプレートとも呼ばれます。咬合挙上板は、上顎の前歯で下顎の前歯が隠れるほどの深い噛み合わせ、いわゆる過蓋咬合(かがいこうごう)の治療に用いられます。
写真の装置を上顎に装着することをイメージしてみてください。前方に盛り上がっている箇所がありますが、ここは下顎の前歯が当たる部分で、少し隆起しているのが咬合挙上板の特徴です。
咬合挙上板をつけた状態で普通に噛み合わせると、下顎の前歯が装置に当たり、奥歯は1~3mmほど浮き上がった状態になります。すると、下顎の前歯は下向きに押され、奥歯は伸びていくことで、噛み合わせの位置が上がります。この働きで、前歯の深すぎる噛み合わせを改善します。
提携医院である札幌のポラリス歯科・矯正歯科のコラムに、過蓋咬合について詳しい解説がありますので、興味のある方はご参照ください。
咬合斜面板(こうごうしゃめんばん)
咬合斜面板も上顎につける床矯正装置であり、ジャンピングプレートとも呼ばれます。こちらも嚙み合わせが深く、下顎が後方に下がっている時の治療に用いられます。19世紀に考案されたものが原型で、21世紀の現在でもその改良型が使われていますから、歴史の長い矯正装置と言えるでしょう。
写真をご覧いただくと、下顎の前歯が当たる部分に斜面が設けられているのが分かると思います。
咬合斜面板をつけた状態で噛み合わせると、下顎の前歯が斜面によって前に滑るので、下顎の骨が前方に動かされます。この時、奥歯は噛み合わず、上下の奥歯に隙間が生じます。
すると、奥歯の噛み合わせが伸びて、噛み合わせが上がります。この働きで、後ろにずれている下顎の噛み合わせ位置を前に出していきます。
機能的矯正装置の種類
続いて、機能的矯正装置の種類についてご紹介します。
アクチバトール
アクチバトールは、1936年に考案された機能的矯正装置で、寝ている間に使用します。機能的矯正装置と言えばアクチバトールが一番にイメージされるほど、機能的矯正法を代表する矯正装置であり、F.K.O(エフ・カー・オー:ドイツ語のFunktionskieferorthopädieの略)やバイオネーターとも呼ばれます。
アクチバトールをお口にセットすると、下顎の位置が変化し、横から見ると上顎と下顎の前歯の先端が同じ位置(構成咬合といいます)になります。ただし、触れ合うことはなく、2〜3mmほど隙間があります。
この働きで、下顎の骨の前方への成長発育が促され、上顎前突(じょうがくぜんとつ:出っ歯)が改善されます。また、噛み合わせた時の反対咬合(はんたいこうごう:受け口)や、前歯部の深い噛み合わせの改善にも効果があります。
フレンケル装置
フレンケル装置(Frankel Functional Regulator)は、1966年にドイツの矯正医であるロルフ・フレンケル博士が考案した機能的矯正装置で、英語にならってファンクショナルレギュレーターとも呼ばれます。
上述のアクチバトールから派生した装置ですが、アクチバトールと違って一日中使用します。60年ほど前に発案された矯正装置ということで、ずいぶん昔から使われているのですが、他の床矯正装置や機能的矯正装置と比べると、まだ新しい部類に入りそうです。
フレンケル装置は、お口の周囲の筋肉が歯並びに過剰に作用することを防ぎ、かつ、歯並びを改善するために欠かせない筋肉の働きを活発化します。この働きで、上顎前突や反対咬合、前歯が閉じない開咬(かいこう:オープンバイト)などを改善させます。
リップバンパー
リップバンパーは、1956年に登場した機能的矯正装置です。リップ(Lip:唇)とついているように、唇の筋肉の力を使った装置で、主に下顎の矯正に用いられます。
下唇を噛んでしまう癖などがあると、唇からの圧力がかかって、下顎の前歯は後に傾きやすくなり、お子さんの歯並びが悪くなる原因になります。
写真をご覧いただくとお分かりになると思いますが、リップバンパーをつけると、唇と前歯の間に隙間ができるようになります。
これによって唇が前歯を押さえつけなくなるため、前歯が前方に出るようになり、さらに唇の圧力がリップバンパーを通じて奥の歯(第一大臼歯)に伝わって、奥歯も後方に押すことで、歯並びを整えてくれます。
タングクリブ
タングクリブは歯の裏側に装着するもので、お子さんの舌や指の癖が原因となる歯列不正を矯正するための装置です。詳しくは舌の癖を治すタングクリブのコラムで解説していますので、ご参照ください。
タングクリブをつけると、舌先が金属ワイヤーに接触するので、舌から歯への圧力が遮断され、舌が歯並びを悪くするのを防ぐことができます。この働きで、舌の癖によって生じているすきっ歯や開咬の改善を図ります。
対象年齢と矯正力の働き方
対象年齢
床矯正装置と機能的矯正装置の対象年齢は、どちらも6〜10歳頃です。歯並びで言うと、乳歯から永久歯の歯並びに変わりつつある混合歯列期(こんごうしれつき)という時期に当たります。
矯正力の働き方
冒頭でもお話ししましたが、床矯正装置は噛み合わせた時に、矯正装置自体に矯正力が生まれます。矯正装置から発生する力によって、歯並びや骨格を整えます。
対して、機能的矯正装置は、それ自体に矯正力はありません。機能的矯正装置はお口の周囲の筋肉の働きを矯正力に変えて利用します。具体的には下顎の運動に関係する筋肉です。
このように、床矯正装置と機能的矯正装置は、対象とする年齢層は同じですが、矯正力の働き方には違いがあるのです。
患者さん一人一人に最適な矯正装置を
今回は床矯正装置と機能的矯正装置についてお伝えしました。ちょっと専門的なお話だったかもしれませんが、色々な矯正装置が、目的に応じて開発されていることをお分かりいただけたかと思います。
様々な種類の小児矯正のコラムでも解説していますが、床矯正装置と機能的矯正装置のどちらを選ぶか、もしくはワイヤー矯正やマウスピース矯正の方が良いのかは、症状や年齢などによって変わります。大切なのは、患者さん一人一人の歯並びや顎の状態に合った矯正方法を選択することです。
町田歯科には日本矯正歯科学会の認定医や、矯正治療の経験が豊富な歯学博士が在籍し、患者さんに対応しますので、安心してご相談いただければと思います。町田歯科の矯正治療の方針や実例、費用などについては、町田歯科・矯正歯科 矯正情報特設サイトで詳しく解説しておりますので、ぜひご参照ください。