先日、テレビの健康番組でコメンテーターが「歯磨きは食後30分以上経ってからにしないと、歯が溶けてしまう」と言っているのを見た患者さんから、「歯磨きは食事の後すぐにしてはいけないんですか？」と尋ねられました。
一般的には、小さい頃から「歯磨きは食べたらすぐにするもの」と教えられたと思います。そんな皆さんが、こういったテレビの報道を耳にすれば、疑問が出てくるのはごく自然なことですよね。
そこで今回は、歯磨きをするタイミングについてお話ししようと思います。
報道の元ネタになった実験
テレビ報道の元ネタとなったのは、アメリカで行われたある実験の結果です。その実験とは以下のようなものでした。
まず、抜いた歯から象牙質を取り出し、その一部を炭酸飲料の中に90秒間浸す。その後、口の中に戻します。そして歯磨きの時間を何パターンかに分けて、炭酸飲料の影響を調べる。
・・・このようなフローなのですが、よく見てみると、虫歯の文字が一つも出てこないですよね。
そうなんです。この実験は、歯磨きと虫歯の関係を調べたものではなく、炭酸飲料によって歯が溶かされるのか、歯磨きでそれは防げるのかを調べた実験、つまり酸蝕症（さんしょくしょう）の実験だったのです。
テレビではどうしてもセンセーショナルな報道の方が好まれるため、意図的かどうかはわかりませんが、歯磨きと虫歯の関係を調べた実験でないにもかかわらず、歪曲して伝えていたというのが実情なのです。
歯磨きの目的
歯磨きの目的はいろいろありますが、最大の目的はプラークの除去、すなわちプラークコントロールです。
プラークとは、歯の表面についている白いカスのような付着物です。プラークの中には、数えきれない種類の細菌がたくさん潜んでいます。
その中には虫歯の原因であるミュータンス菌もあれば、歯周病の原因菌であるアクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンス菌、カビ菌などもいます。歯磨きをおろそかにし、プラークがついた状態のままで過ごしていると、虫歯にもなりやすく、歯周病にもかかりやすくなります。
歯やお口の健康にとって、諸悪の根源とも言えるプラークはきれいに取り除かなくてはなりません。歯磨きは、プラークコントロールを通して歯の健康を保つための基本とも言えますので、とても大切なのです。
学会は食後すぐの歯磨きを推奨
日本小児歯科学会の提言
お子様の虫歯や歯周病などのお口の病気を専門にしている日本小児歯科学会という組織があります。この小児歯科学会では、学校や幼稚園、保育園での虫歯予防に取り組んでいて、お昼ごはんの後の学校や園での歯磨きについて、「食後早い段階での歯磨き」を勧めています。
そして、上記のテレビ報道を受け、食後の歯磨きのタイミングに関して提言を出しました。
この提言の中では、歯磨きがプラークを取り除く大切な行為であること、時間が経てば経つほど、プラークの中で酸が作られて歯が溶け始めることなどから、今までと同じく食事の後早めに歯磨きを開始して、プラークとその中のさまざまな細菌を取り除くことが、歯の健康を保つうえで望ましいと伝えています。
日本保存歯科学会の見解
保存歯科学会とは、歯を長持ちさせるために虫歯治療を研究している学会です。こちらでも、食後30分以内の歯磨きの是非について見解を出しています。
「基本的には虫歯予防の視点にたつと食後の早い時間の歯磨きが望ましい」「炭酸飲料などの酸性の飲食物を摂った後、30分間歯磨きを避けるべきという根拠の確認はできていない」と発表しており、こちらの学会でも、食後すぐの歯磨きの方が良いという見解で変わらないようです。
おすすめの歯磨きのタイミング
では実際の日常生活の中で、歯磨きはいつするのがいいのでしょうか？
ここからはタイミング別に説明していきましょう。
朝起きた後
唾液には虫歯菌への抗菌作用や、お口の汚れを洗い流す洗浄作用、虫歯で溶かされた歯を治す再石灰化作用、酸を中和する緩衝作用などいろいろな働きがあります。
寝ている間は、唾液の量が減少しますので、お口の中で細菌が増えやすくなります。朝起きた後、口臭がするのはこれが理由です。
朝起きた後に歯磨きすることで、お口の中の細菌を取り除くようにしましょう。
何か食べたらその都度
歯磨きの基本は、『食べたら磨く』です。食べ物は、私たち人間の栄養源となるだけでなく、お口の細菌の栄養ともなるからです。
そこで、一日の朝食、昼食、夕食の3食だけでなく、間食をしたら、間食の後も磨いてください。また、夕食の後から寝るまでの間に夜食を食べたら、夜食の後も忘れずに歯磨きをしましょう。
寝る前
先ほどもお話ししたとおり、寝ている間にお口の中で細菌が増えますので、寝る前に歯磨きをして、少しでもお口の中から細菌を取り除く習慣をつけてください。
間違った情報に惑わされないように
今回は、食後の歯磨きのタイミングについてお話ししました。テレビで報道された「食後歯磨きをすぐにしてはいけない」というのは、虫歯ではなく酸蝕症の実験の結果に基づくものです。
歯科学会の見解と同様、町田歯科でも食後すぐの歯磨きをおすすめしています。できることなら、食後だけでなく、朝起きた後や寝る前にも歯磨きする方が、歯やお口の健康のためには効果的です。
町田歯科では、大切な歯のメインテナンスの一環として、正しい歯磨きの方法を歯科衛生士が指導しています。また、患者さん一人一人に合った歯磨き粉についても、歯のクリーニングページで解説していますので、併せてご覧いただければと思います。
歯磨きの方法に疑問がある方、よくわからないという方は、当院までお気軽にご相談ください。
