インプラントで治療すると、本物の歯と同じように噛めるうえ、審美性を求めるインプラント治療とはのコラムでもご紹介したように、セラミックで上部構造(歯冠部分)を作れば、自然で美しい白さを持つ歯を手に入れることができます。
ただ、上部構造が入るとホッとして、「これですべて完了」と思ってしまう方もいらっしゃいます。フラップレスのインプラントとは異なり、通常のインプラント治療の場合は、相応に時間もかかりますし、お気持ちは重々理解できるのですが、インプラント治療を受けた後のケアのコラムでもお伝えしたとおり、インプラントはメンテナンスフリーではありません。
インプラントは歯周病になる
インプラントを長持ちさせるには、治療後に注意していただきたいことがあります。特に、インプラントは本物の歯ではないので、虫歯になる心配はありませんが、歯周病でダメになってしまうことがあるのです。
インプラントの歯周病はインプラント周囲炎と呼ばれ、インプラント治療後のケアを怠ってしまうと、このインプラント周囲炎にかかることがあります。症状がひどくなると、インプラントを抜去(ばっきょ:歯を抜くこと)せざるを得ないケースもありますので、注意してください。
インプラントの歯周病、インプラント周囲炎とは?
インプラント周囲炎は、インプラントの歯周病というだけあって、その症状は通常の歯周病によく似ています。また、日本歯周病学会の調査によると、インプラント周囲炎の発生率は9.7%という調査結果があります。
神奈川大学の研究(日本人におけるインプラント周囲炎発症に関する臨床的考察―発症率とリスク要因からの検討―)では、日本人のインプラント周囲炎の発症率は、患者単位で13.0%、インプラント単位で9.5%というデータがあります。やはりインプラント周囲炎の発生率は、おおよそ1割となります。
インプラント周囲炎の原因
先ほど、インプラント周囲炎は通常の歯周病に似ているとお伝えしましたが、インプラント周囲炎の原因は、こちらも通常の歯周病と同じく、インプラントの周囲についたプラーク(歯垢)です。
歯周病は治療が可能のコラムでも説明していますが、プラークの中には歯周病の原因となる細菌がたくさん巣食っています。この細菌がインプラントを支えている歯肉や骨にダメージを与えることで、インプラント周囲炎が発症します。
このほか、喫煙や食生活などの生活習慣、歯ぎしりや口呼吸などの癖もインプラント周囲炎の原因になり得ます。
インプラント周囲炎の症状
一般的な歯周病は、症状によって、歯茎の表面だけに起きる歯肉炎と、歯周ポケットや歯槽骨にまで炎症が及ぶ歯周炎に分けられます。
インプラント周囲炎も同様に、インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎に分類されます。同じ単語が出てきて迷うかもしれませんが、広義でのインプラント周囲炎に、インプラント周囲粘膜炎も含まれるイメージです。
インプラント周囲粘膜炎
一般的な歯周病の歯肉炎に相当するのが、インプラント周囲粘膜炎です。インプラント周囲粘膜炎は、インプラント周辺の歯肉にだけ、腫れや赤み、痛み、出血などの炎症症状が生じます。
あくまでも歯肉にだけ症状が生じたものなので、インプラントの周囲の骨は異常ありませんし、初期段階では自覚症状さえありません。
歯周病が、歯肉にのみ炎症が生じる歯肉炎から始まるように、インプラント周囲炎もインプラント周囲粘膜炎から始まります。注意してください。
インプラント周囲炎
一般的な歯周病の歯周炎に相当するのがインプラント周囲炎です。インプラント周囲炎は、インプラントの周りの炎症が、歯肉から骨にまで広がった病態です。
歯肉の下にある骨が吸収されて減っていくので、歯肉の支えが減り、インプラント周囲の歯肉が下がっていきます。
下がり具合によっては、インプラントの歯根部分が見えてくることもあり、さらに骨がインプラントを支えられないほどに減ってしまうと、インプラントがグラグラし始め、最終的には抜け落ちてしまいます。この点も歯周炎と同様と言えるでしょう。
インプラント周囲炎の治療法
プラーク(歯垢)の除去
インプラント周囲炎の原因はプラーク(歯垢)ですから、しっかりとプラークを取り除くことが、基本的な治療になります。
歯科用の専用機材とペーストを使って、歯の表面のプラークを取り除くPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)を行うと同時に、プラークの温床となる歯石も除去します。
そして、インプラント治療を受けた後のケアのコラムでもご紹介していますが、ご自身でも毎日の歯磨きでプラークを取り除けるよう、インプラントに適した歯磨きの方法に加え、使いやすい歯磨き用品のご提案もしていきます。
消毒や洗浄、薬物治療
炎症を起こしている部分を、クロルヘキシジン(殺菌消毒剤)などを使って消毒・洗浄します。また、プラークの中にいる細菌を、抗菌薬を使って抑制します。
抗菌薬は、インプラント周囲炎を起こしている部分に軟膏を直接注入するほか、内服薬を処方して一定期間飲んでいただくようにし、炎症を抑えていきます。
外科治療
外科治療は、インプラントの周囲の骨が広くダメージを受けている場合に行われる処置で、インプラントの周囲の歯肉を切開して、インプラントの周囲のクリーニングや殺菌を行うアプローチです。周囲の骨のダメージによっては、周囲の組織や歯槽骨の回復を図る再生療法が用いられることもあります。
抜去
インプラントの周囲の骨のダメージが深刻で、回復が見込めない、グラグラが強すぎる場合は、インプラントを除去することになります。
インプラント周囲炎の予防法
インプラント周囲炎になると、最終的には、せっかくのインプラントが使用できなくなってしまいますので、そうならないようにする『予防』がとても大切になります。
インプラント周囲炎はインプラントの歯周病であるため、基本的には、通常の歯周病と同じ対策を心掛けてください。
プラークコントロール
プラーク(歯垢)がインプラント周囲炎の原因となるため、日頃のプラークコントロールが重要です。
基本となるのは毎日の歯磨きです。インプラントを入れた当初はしっかり歯磨きしていても、時が経つにつれ、ぞんざいになってしまう方もいらっしゃいます。やはりセルフケアの基本となる毎日の歯磨きは、しっかりと行うようにしましょう。
また、インプラントを入れた後は、インプラントの噛み合わせ調整など、定期的に歯科医院で状態をチェックしてもらうようになりますが、その際は、PMTCでインプラントの周囲の汚れも取り除いてもらってください。
生活習慣の改善
日頃の生活習慣についても確認してみましょう。ストレスの多い現代社会では難しいものですが、食習慣の乱れや偏りをなるべくなくし、睡眠時間も確保するようにして、免疫力を高めておくことが大切です。
免疫力が高まれば、インプラント周囲炎の原因となる細菌にも感染しづらくなってきます。健康的な生活習慣を心がけることは、お口の健康にもつながります。
禁煙
喫煙は、自然の歯に対してもですが、インプラントにとっても良くありません。タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、血流を阻害し、歯茎の状態を悪くします。このほか唾液が減少したり、先ほどお伝えした免疫力も低下してしまいます。
インプラントの噛み合わせ調整のコラムでもお伝えしたとおり、人口の歯であるインプラントには歯根膜がありません。そのため、自然の歯よりも感染症などに弱く、喫煙による歯茎や骨への悪影響も大きくなります。
タバコを吸う習慣のある方は、ぜひ禁煙に取り組んでみてください。もちろんいきなりタバコゼロは無理でしょうから、本数を減らしつつ、禁煙外来などを利用することをおすすめします。
大切なインプラントをインプラント周囲炎から守るために
今回は、歯周病のインプラントの歯周病であるインプラント周囲炎についてお話ししました。ご理解いただけたかと思いますが、インプラント周囲炎の症状は、歯周病と大変よく似ています。
歯肉の炎症であるインプラント周囲粘膜炎に始まり、悪化すると、炎症は歯肉や骨にまで達してインプラント周囲炎になります。そして骨のダメージが蓄積すると、最終的にはインプラントが抜けてしまいますから、大切なインプラントを守るために、きちんとしたケアをすることが大切です。
幸いなことにインプラント周囲炎を予防することはできます。通常の歯周病治療と同様に、正しく毎日の歯磨きを行ってプラークコントロール(セルフケア)をし、生活習慣にも気をつけつつ、歯科医院での定期診断やPMTC(プロフェッショナルケア)を忘れないようにしましょう。詳しくは歯を長持ちさせるセルフケアとプロフェッショナルケアのコラムでも解説していますので、併せてご参照ください。
町田歯科では、通常の歯のメインテナンスや予防歯科に加え、インプラント周囲炎の対策にも積極的に取り組んでおりますので、インプラントをご検討の方は当院にぜひご相談ください。