以前、他の歯への負担が少ないインプラントのコラムで、インプラント治療についてご説明しました。インプラント治療は60年にもわたる歴史があり、噛み合わせだけでなく、優れた審美性も得られる治療法です。さらに、インプラント治療は成功率が90〜95%以上とも言われており、十分に成功率の高い治療法と言って良いでしょう。
ただ、当院のインプラントページでもお伝えしているように、インプラント治療を行うには、顎の骨にチタン合金の土台を埋め込む手術が必要です。
成功率は大変高いものの、手術を行うため、リスクを伴います。入れ歯やブリッジなどと比べ、メリットも多いインプラントですが、やはりリスクが気になるという方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、インプラントの手術リスクと安全性について、詳しくご説明します。
インプラント手術のリスク
手術中のリスク
まずはインプラント手術中のリスクから解説しましょう。
血圧の変動
手術中に痛みや不安を感じると、アドレナリンが分泌され、血圧が上昇することがあります。反対に、迷走神経反射により、血圧が下がってしまうこともあります。
局所麻酔時の動悸について解説したコラムでも触れていますが、迷走神経反射とは、過度な緊張や不安が原因で起こる、一過性の血圧低下のことです。
血圧が変動すると手術の安全性に関わるので、手術中は血圧をモニターして、しっかりと安全性を確保します。
気分の不良
上述の迷走神経反射が起こると、心拍数の低下や血圧の低下が生じ、脳が貧血状態になります。これにより、気分が悪くなったり、冷や汗が出たり、めまいを起こしたりします。
脳の貧血状態が長時間続くと、意識を失うこともありますので、治療中は患者さんの状態を丁寧に把握するようにします。
出血
インプラント手術は外科手術ですから、出血は避けられません。通常量の出血であれば問題ないのですが、下顎のインプラント手術で下歯槽動脈(かしそうどうみゃく)という動脈を傷つけてしまうと、多くの出血を起こす可能性があり、注意が必要です。
インプラントの上顎洞迷入(じょうがくどうめいにゅう)
上顎洞(じょうがくどう)とは、鼻の隣、目の下にある頭蓋骨の空洞です。上顎のインプラント手術で、インプラントを深く挿入し過ぎると、上顎洞の中にインプラントが入り込んでしまうことがあります。
これを上顎洞迷入(じょうがくどうめいにゅう)と呼びます。上顎洞に迷入してしまったインプラントは、早期に除去する必要があります。
手術後のリスク
インプラント手術後に起こりうるリスクとしては、以下のようなものが考えられます。
術後の炎症
インプラント手術を受けた後は、炎症反応が起こります。具体的には痛みや腫れ、熱を持つことなどで、これらは傷を治そうとする身体の正常な反応のため、完全になくすことはできません。
このうち、腫れや熱感については、術後24〜48時間がピークとなり、その後数日かけて徐々に減っていきます。
術後の出血
インプラント手術の後は、手術部位の出血がおさまっているのを確認し、終了としますが、まれに帰宅後など、時間が経ってから出血することもあります。また、数日間ほど唾液に血液が混じることもあります。
術後感染症
術後感染症は、手術部位に細菌感染が生じることです。術後感染はほとんど起こりませんが、インプラント治療の成否に関わるので、コントロールは重要です。
皮下出血
皮下出血は、わかりやすく言うと青アザのことです。アザができるのは、手術部位の出血が皮下組織に広がることが原因です。
広がった血液は、自然に吸収されてなくなりますが、しばらくの間、青アザが目立つこともあります。
知覚麻痺
下顎の奥のインプラント手術で注意しなければならないのが、術後の痺れです。
下顎奥歯の根の先付近には、下顎管(かがくかん)という管があり、下唇や下顎の先の感覚を司る神経(下歯槽神経:かしそうしんけい)が通っています。この神経を傷つけてしまうと、下唇や下顎の先の感覚が痺れて鈍くなります。
また、下顎の奥の内側には、舌の感覚を担う神経も通っています。この神経を傷つけると、舌の感覚が痺れてしまいます。
上顎洞炎(じょうがくどうえん)
上顎の奥のインプラント手術の際、先ほどお伝えした上顎洞の表面を覆っている粘膜を傷つけてしまうと、上顎洞炎(じょうがくどうえん)という炎症を起こすことがあります。
インプラント手術時の安全性の確保
ここまでインプラント手術におけるリスクについてお話ししてきました。では、ここからはリスクを減らし、安全に手術を受けるための方法について解説しましょう。
既往歴の確認
高血圧症や糖尿病、心臓病などの循環器系の病気、脳梗塞などの脳の病気に加え、肝臓病や腎臓病など、インプラント手術の安全性に関わる病気は多いものです。
インプラントのページでもお伝えしていますが、治療に進む前に、安全性に関係するような病気にかかっていないかを、しっかりと確認します。該当するような病気がある場合は、担当の医師に、インプラント手術への影響や注意点などを問い合わせます。
アレルギーの有無
インプラント手術では、様々な薬を使います。手術で使う薬剤にアレルギーがあれば、その薬は使えなくなるため、使用する薬剤に対するアレルギーがないかどうかを、事前に確認する必要があります。
CTによる骨の状態の確認
先にお伝えした下顎の神経のリスクや、上顎洞へのリスクを減らすためには、インプラント手術前に行うレントゲンでの確認に加え、CTで骨の形を三次元的に確認することが重要です。
手術を行う部位の骨の状態を様々な方向から検査・診断し、適切な大きさのインプラントを、適切な方向・深さで入れてもらうようにしましょう。
町田歯科では、世界的な信頼度を誇る、ストローマンガイドシステムを用いたCT検査や挿入シミュレーションを行いますので、安心してご相談いただければと思います。
鎮静法(セデーション)の併用
インプラント手術は長時間に及ぶことも多くなります。手術中の不安感は、血圧上昇の原因にもなりかねません。
そこで、併用の候補として考えられるのが鎮静法(静脈内鎮静法・セデーション)です。静脈内へ精神的にリラックスできる薬を持続的に注入し、手術中の不安感を減らすようにします。
鎮静法についは、以前のコラム、静脈内鎮静法(セデーション)についてで詳しく解説していますので、併せてご参照ください。
麻酔による痛みのコントロール
手術中の痛みは、血圧に大きく影響します。手術中、極力痛みを感じることがないように、局所麻酔を十分に効かせることが大切です。
帰宅後のリスク対策は?
先ほどインプラント手術後のリスクを挙げましたが、帰宅後など、時間が経過した際に起こり得る各症状への対処もご説明しましょう。
術後炎症は冷やし過ぎない
手術後の腫れに対しては、冷やしすぎないようにすることが大切です。氷水や冷えピタなどの市販薬で冷やさないようにしてください。
止血と安静
帰宅してから出血した場合は、ガーゼを30分ほど噛んでいただくと、十分止血できます。
特に手術当日は出血しやすいので「入浴はシャワーにとどめる」「あまり動かず、ゆっくり休むようにする」など、安静にすることを心がけてください。
抗菌薬・痛み止めの処方
術後感染症の予防には、抗菌薬の予防投与が大切です。処方された抗菌薬を正しく飲むようにしてください。そして、お口の中を清潔に保つことも大切なので、歯磨きも忘れずに行ないましょう。
また、痛みについては、手術後に処方された痛み止めの薬を使って緩和しましょう。飲み方も説明書どおりにして、多く飲み過ぎたりしないよう、気をつけてください。
皮下出血は自然治癒する
皮下出血(青アザ)は、2〜3週間程度で自然になくなりますので、様子を見てください。
担当医師への相談が必要な場合
ここまで、ご自身で対処できる方法を挙げてきましたが、医師に相談した方が良いケースもあります。併せてご説明しましょう。
翌日にも痺れが残る場合
手術当日は局所麻酔の効果が残っているので、痺れていても異常ではありません。しかし、翌日になっても痺れが認められる場合、主治医の歯科医師に相談しましょう。必要に応じて、神経の回復を図る薬や、ビタミン剤等を処方してもらうようにします。
上顎洞炎の場合
インプラント手術後に上顎洞炎を起こすと、蓄膿(ちくのう)のような症状が出ます。この場合も担当医師に抗菌薬を処方してもらい、症状を改善させましょう。
確かな対応でインプラント手術のリスクをコントロール
今回は、インプラント治療の手術リスクや安全性について解説しました。インプラント治療は歴史もあり、成功率の高い治療法です。また、インプラントに使用される素材も年々進化しています。
もちろん今回お伝えしたように、リスクがないわけではありませんが、インプラント手術に伴うリスクは十分コントロール可能なものです。
町田歯科にはインプラントの治療経験が豊富な歯科医師が在籍しており、インプラントページでお伝えしているとおり、最新の機材を導入し、術前の検査を徹底したうえで、リスクコントロールに努めています。インプラント治療について、リスクや安全性の点でご質問やご相談がある方は、お気軽に町田歯科へご連絡いただければと思います。