皆さんは酸蝕症(さんしょくしょう)をご存じですか?
なかなか聞き慣れない言葉ですよね。字を見ればおおよそ想像がつくかもしれませんが、酸蝕症とは「酸によって歯が溶けて、蝕まれる症状」を指します。
歯は酸による刺激に弱いという特徴があります。そのため、酸性のものが原因で、歯が溶けてボロボロになってしまうことがあるのです。
日本人の4人に1人は酸蝕歯、第三の歯科疾患
ちょっと聞き慣れない酸蝕症ですが、この酸蝕症になってしまった歯を酸蝕歯(さんしょくし)と呼び、実は虫歯や歯周病に次ぐ第三の歯科疾患とも言われています。このように言われるのは、すでに日本人の4人に1人が酸蝕歯になっているからです。
酸蝕歯については、NHKなどのメディアでも取り挙げられており、年々注目が高まっています。実際の写真を見ることもできますので、興味のある方はご参照ください。
酸そのものが歯を溶かす
虫歯治療のページで解説しているように、虫歯ができるのは、ミュータンス菌を代表とする細菌が、酸を産生して歯を溶かしてしまうためです。しかし、同じく酸の影響が原因ですが、酸蝕症は細菌によるものではありません。
細菌感染ではなく、酸そのものが歯を溶かしてしまう病気を酸蝕症といいます。今回は、そんな酸蝕症についてお話しします。
酸蝕症の原因
酸蝕症になる原因は、大きく分けて2つあります。体の中で作られた酸が原因のものと、生活習慣や環境が原因で、歯が酸に晒されることによるものです。
体の中で作られた酸が原因の場合
体内で作られる酸で、酸蝕症の原因になりやすいものには、過食症や拒食症などの摂食障害による習慣的嘔吐が挙げられます。
胃液はpH1〜2で強い酸性です。嘔吐により、強い酸性の胃液が口の中に逆流すると、歯が溶けてしまうことがあるのです。
若い女性に多い摂食障害ですが、20代で全ての歯を失い、総入れ歯になってしまったケースもあります。また、お酒を頻繁に飲む方で、大量に飲んだ後に嘔吐する習慣がある方も、酸蝕症になるリスクが高くなります。
同じく胃液が原因で酸蝕症になってしまう病気として、逆流性食道炎(GERD)も挙げられます。逆流性食道炎では、胃酸の逆流だけでなく、胃からの酸性ガスが口の中に逆流してくることも酸蝕症の原因となるので、注意が必要です。
生活習慣や環境が原因の場合
酸性の飲料を頻繁に飲む方は酸蝕症になりやすくなります。
酸性の飲料といっても色々ありますが、お酢やレモンなどを含む飲料はもちろんのこと、ジュースやワイン、炭酸飲料も酸性のため注意してください。運動時に飲むことが多いスポーツ飲料も酸性のため、日常的に大量に飲む方は気をつけましょう。
ただし、これらの飲料は、多少飲んだだけでは酸蝕症になりません。度を超えた量で、そして習慣的に飲むことでリスクが高くなります。
以前は工場勤務者の職業病とも
また、硫酸や塩酸など、酸性のガスを扱っている工場等で働いている方も、酸蝕症になるリスクが高くなります。かつて酸蝕症は、こういった工場に勤務する人たちの職業病とも捉えられていました。
これらの工場勤務者の場合、酸蝕症は前歯に多く、特に下の歯に発生しやすいという特徴があります。その理由としては、前歯は酸性のガスが直接暴露しやすいこと、そして酸性のガスを含んだ唾液が、下の歯に触れている時間が長いことが言われています。
ただ、現在は労働環境も改善され、そのような環境で働いている方は、職場の健康診断で酸蝕症の検査をしていることがほとんどです。
酸蝕症の症状
では実際に酸蝕症の症状を見ていきましょう。
まず酸蝕症になると、歯の一番表層のエナメル質が溶けてしまいます。エナメル質が溶けると、その下にある象牙質が剥き出しになります。
象牙質は痛覚を感じる神経が近くにあるので、象牙質が晒されることで知覚過敏になりやすくなります。象牙質はエナメル質よりも柔らかいので、様々な刺激ですり減ったり、歯が短くなったりといった悪影響も出てきます。
さらに進行して時間が経つと、どんどん歯はボロボロになり、最終的には抜歯しなくてはならないケースもあります。
酸蝕症の予防
摂食障害や逆流性食道炎のある方は、それらの疾患をまず治すことが、何よりの酸蝕症予防になります。この場合は、内科的な治療が必要になります。
嘔吐してしまう方は、嘔吐直後に強い力で歯磨きはしないようにしてください。歯が弱くなっているので、強い力で刺激を加えてしまうと、歯が削れてしまいます。嘔吐した後は、口の中から酸を洗い流すために、水でうがいをしてください。
また、先ほどお伝えしたように、酸性の飲み物を大量に飲んだり、長い時間飲み続けたりするのは控えるようにしましょう。寝る直前に酸性の飲み物を飲むことも控えた方が良いですね。寝ている間は唾液の量が減るので、口内のpHが酸性に傾き、戻りにくいのです。
酸蝕症の治療
酸蝕症により、歯に症状が出てしまった場合は治療が必要になります。残念ながら、一度溶けてしまった歯を再生することはできませんので、酸蝕症の進行を止める・症状を和らげる治療を行っていきます。
食生活の指導
まずカウンセリングを通じてしっかりと患者さんとお話しし、食生活の指導を行います。歯の治療をしても、根本的な食生活が改善されなければ、再度酸蝕症になってしまうからです。
食生活は患者さんによってそれぞれ異なるため、専門家のアドバイスが必要になるケースもあります。その場合は、心療内科や消化器内科とも連携し、治療を進めていきます。
知覚過敏への対処
酸蝕症で知覚過敏が出てきた場合、知覚過敏を抑える薬を使用したり、酸性の物質から歯を守る働きのあるフッ素を塗布することもあります。
ご自宅では、歯磨きの際に、知覚過敏予防の効果がある歯磨き粉を使うのも良いでしょう。
詰めもの・被せもの
酸蝕症が進行し、歯が削れてきたり、小さくなってきたりした場合は、詰めものや被せものが必要になります。どの程度歯が欠損しているかを見極め、歯の状態に応じて修復治療を行います。
詰めもの・被せもののページで詳しく解説していますが、町田歯科では歯のバランスや仕上がりを十分考慮し、患者さん一人一人に最適な詰めもの・被せものを使用して治療を行いますので、安心してご相談ください。
酸蝕症かなと思ったら、早めに歯科医院でご相談を
今回は酸蝕症について解説してきました。ちょっと聞き慣れない酸蝕症ですが、お伝えしたように、現代人には酸蝕歯が増えてきており、注意が必要です。
摂食障害やアルコール依存症、胃腸の不調などから酸蝕症になることもありますから、ライフスタイルをしっかりと整えていくことも大切です。
溶けてしまった歯は、元の健康な歯に戻すことはできません。やはり、酸蝕症において重要なことは早期発見・早期治療ですので、少しでも心配だと思った方は、町田歯科でお気軽にご相談ください。