「高血圧なのですが、歯科治療は大丈夫でしょうか?」
町田歯科でも、患者さんからこのような質問を受けることがあります。たしかに血圧の薬を飲んでいたりすると、麻酔や抜歯などを行う時、気になりますよね。
高血圧の日本人の割合は?
世界的に見ると、高血圧症はアフリカや東欧・ロシアで多いのですが、日本の場合、これらの国ほどではないものの、アメリカやオーストラリア、近隣の韓国よりも高血圧症になる人の比率は高いのです。実に日本人の3人に1人程度が高血圧と診断されており、その数は年齢とともに増加します。また、中年の男性では、肥満が原因の高血圧も増えています。
日本人の高血圧の最大の原因は、食塩の摂取過多です。食塩は血圧を上げますが、日本人の1日の食塩摂取量は10gほどで、世界保健機関(WHO)が推奨する5gを大きく超えています。
このような状況ですから、歯科治療の際に、高血圧が気になる患者さんがいらっしゃるのはよく理解できます。また、高血圧は自覚症状に乏しく、気づかないまま放置されることが多いので、注意も必要です。今回は、そんな高血圧と歯科治療についてお伝えしたいと思います。
血圧について
まず最初に血圧についてお話ししましょう。血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力(圧力)を指します。
血圧は、心臓が1回の拍動(はくどう)で全身に送り出す血液量(心拍出量:しんはくしゅつりょう)や、血管のしなやかさ(弾力性)の他、血液が血管に流れ込む際の末梢血管の抵抗力(血管抵抗)、血液の粘度などによって決まります。また、腎臓や神経などの働きも、血圧の調節に関係しています。
皆さんも血圧を測ったことがあればお分かりかと思いますが、血圧は常に一定ではなく、変動するものです。測定する時間帯や季節、日常生活の行動や精神的ストレスなど、様々な要因によって変わります。
また、血圧は最高血圧と最低血圧の2つの数値で表されます。最高血圧は、心臓が大動脈に血液を送り出す時の数値で、収縮期血圧ともいわれます。最低血圧は、心臓が収縮した後、元の太さに戻ろうとする時の数値で、拡張期血圧ともいわれます。
どれくらいの数値だと高血圧?
最高血圧が140mmHg以上、最低血圧が90mmHg以上の場合は高血圧と診断されます。冒頭でも触れたとおり、高血圧は自覚症状に乏しいため、気づかないまま放置されることがほとんどです。
しかし、高血圧の状態では心臓・脳などに負担をかけ、動脈硬化が進行します。その結果、心筋梗塞・脳卒中などの重大な合併症を引き起こします。
一方、最高血圧が100mmHgを下回った場合は低血圧とされます。悩まされている症状がなければ、特に問題はありません。ただ、立ちくらみや眩暈(めまい)などが起こる場合は、注意が必要です。
高血圧の合併症
高血圧の合併症は全身に生じます。代表的な合併症は、以下に挙げるようなものです。
心臓の合併症
高血圧性心肥大(こうけつあつせいしんひだい)
心臓に負荷がかかるため、心臓の筋肉が肥大する病状です。心不全や不整脈のリスクが高まります。
心筋梗塞(しんきんこうそく)・狭心症(きょうしんしょう)
心臓に酸素や栄養を送る冠動脈が、動脈硬化で詰まったり、狭くなったりします。胸痛や圧迫感を感じたり、心臓の筋肉が壊死することもあります。
脳の合併症
脳出血・脳梗塞(のうこうそく)
脳内の血管が高血圧で破裂したり、血栓が詰まったりします。頭痛・麻痺・意識障害などが起きたり、死亡することもあります。
認知症
高血圧で脳内の小さな血管に障害が起き、微小な出血や梗塞が生じます。記憶力や判断力などの認知機能が低下します。
腎臓の合併症
高血圧性腎障害・腎不全
腎臓内の細い血管が高血圧で傷ついてしまい、尿にタンパクが出たり、老廃物の排泄がうまくできなくなったりします。透析が必要になることもあります。
目の合併症
高血圧性網膜症(こうけつあつせいもうまくしょう)
目の奥にある、光を感知する網膜の血管に、高血圧による障害が生じます。眼底出血(がんていしゅっけつ)や視力障害、失明の原因になることもあります。
四肢の合併症
末梢動脈疾患(まっしょうどうみゃくしっかん)
四肢に酸素や栄養を送る動脈が、動脈硬化で詰まったり、狭くなったりします。足のしびれや冷え、歩行時の痛みなどを引き起こします。
高血圧の方の歯科治療上の注意点
局所麻酔と抜歯に注意
高血圧は心臓から送り出された血液の、血管の内壁を押す力が強すぎる状態です。このような状態の方が、歯科治療を受ける際に注意するのは局所麻酔と抜歯です。
局所麻酔は痛みを感じないようにするために必要ですが、局所麻酔薬には心臓を刺激する成分(アドレナリン、エピネフリン)が含まれているものがあります。
これらの成分は血圧を一時的に上げる作用があります。そのため、高血圧の方は局所麻酔薬の種類や量に注意しなくてはなりません。
また、抜歯は出血や感染のリスクがあります。高血圧の方は血管が硬くなっているため、出血が止まりにくくなったり、出血量が多くなったりすることがあります。そのため、抜歯後は止血処置や縫合処置をしっかり行う必要があります。
歯科治療を受ける際に守っていただきたいこと
高血圧の方が歯科治療を受ける前には、以下のことを必ず守ってください。
- 飲んでいる降圧薬やその他の薬を全て伝える。
- かかりつけの病院名や医師名を伝える。
- 治療当日は降圧薬をいつもどおりに飲む。
- 歯科医院で血圧測定を行う。
- 血圧が180/110mmHg以上の場合は治療を延期する。
また、治療を行う歯科医院のスタッフと連携しつつ、次のことを念頭に置いた処置を行ってもらうようにしましょう。
- なるべくリラックスし、過度な緊張や不安を感じないようにする。
- 局所麻酔薬は必要最小限の量と種類で使用してもらう。
- 血圧の変化に注意してもらう。
- 抜歯後は止血処置や縫合処置をしっかり行ってもらう。
高血圧の方が歯科治療を受ける際は、歯科医院としっかり情報共有し、上記のことを心掛けるようにしてください。
降圧が必要な場合
降圧が必要なのは、過度な高血圧(多くは180/120mmHg以上)によって、脳心血管系に急性臓器障害が生じた時です。
この症状を認めた場合は迅速に診断し、降圧治療を始める必要があります。降圧する際は、原因にもよりますが、始めは25%未満の降圧にとどめます。
カルシウム拮抗薬(きっこうやく)などの血管拡張薬の持続投与を行い、降圧の維持を図ります。短時間作用型のニフェジピンカプセルなどの降圧薬は、急速な降圧により脳・心臓の虚血(きょけつ:血液が十分に供給されないこと)を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
高血圧の方は歯科医院としっかり連携した治療を
高血圧の方は動脈の柔軟性が弱くなり、血管が硬くなっていることが多く、痛みや不安により血圧の変動もしやすくなっています。
歯科受診前や治療中の血圧には十分注意し、歯科治療中も血圧の測定(モニタリング)を受けるようにしましょう。
ご自身の事前準備に加え、しっかりと歯科医院に情報を伝えて、連携しつつ処置を行うようにすれば、高血圧の方も安心して歯科治療を受けることができます。もちろん町田歯科では、綿密なカウンセリングに基づき、患者さん一人一人の持病や体調に十分配慮した治療を行いますので、お気軽にご相談ください。