インプラント治療が上手くいくための条件は実に多様です。そのため歯科医院では、インプラント治療を受ける前に必要な検査のコラムでご紹介したような様々な検査を綿密に行い、患者さんの体質を見極め、インプラント治療がスムーズに進むように心がけます。
インプラント治療は、骨の状態がポイントに
そんなインプラント治療を成功に導く大切な条件として、骨の状態が挙げられます。現代のインプラントは骨とチタンが結合する現象(これをオッセオインテグレーションといいます)を利用しているので、インプラント治療は骨を基本とした治療とも言うことができ、骨の状態を把握しておくことは大変重要なのです。
骨の状態は、骨量(こつりょう)・骨質(こつしつ)・骨密度に分けて評価されます。骨密度は、皆さんもご存知の単語かもしれませんね。ただ、骨量や骨質というのは、インプラント治療に独自に関係するものなので、あまり聞き慣れないのではないでしょうか。
そこで今回は、インプラント治療を成功させるポイントとなる、骨量や骨質について詳しくお話ししていきます。
骨量
骨量は、骨の量と書くので、骨の体積と考えがちですが、実際はそうではなく、骨全体に含まれるミネラル成分などの量を指しています。骨密度は、この骨に含まれるミネラル成分の量を、単位体積あたりどれくらいあるかを測ったものです。
インプラント治療における骨量という指標は、顎の骨の外形などを総合的に評価するために使われます。
大切な初期固定
インプラント治療を成功させるための要素の一つに、初期固定があります。初期固定とは、インプラントを埋め込んだ時の安定性を意味しており、「初期固定が得られるかどうかが、インプラントの予後を決める」と言ってもいいほどに重要です。
初期固定は、骨量や骨密度と関係することが明らかになっており、骨量や骨密度が高いほど有利となり、インプラントと骨が結合しやすくなります。
インプラント治療に必要な骨量
インプラント治療には、少なくとも高さ10ミリ、幅8ミリ以上の骨量があるのが理想的です。
なお、下顎のインプラント治療の場合、下顎骨の中には下顎管(かがくかん)という神経や動脈が通っているトンネルがあるので、それを避けて上記の骨量が必要になります。
骨量が不足している時の対処法
骨量が不足している場合には、以下に挙げるような対処法によって骨量の確保を行います。
GBR(骨誘導再生法)
GBRは、Guided Bone Regenerationの略で、日本語では骨誘導再生法と訳される治療法です。
骨量が不足している箇所に、骨補填剤や、他の部分から採取したご自身の骨を詰めて、その上をメンブレンという人工膜で覆います。これにより、骨の再生を促し、骨量を確保します。
サイナスリフト
サイナスリフトは、上顎骨の骨量不足に対する治療法の一つです。
インプラントの手術リスクと安全性のコラムでもお伝えしましたが、上顎の奥歯の上には上顎洞(じょうがくどう:専門的にはサイナスと呼びます)という骨の空洞があります。上顎洞の底が上顎の奥歯の付近にある場合、骨量不足と判断します。
サイナスリフトは、上顎の奥歯の歯肉を切開し、上顎洞の側面の骨に小さな穴を開け、そこから骨補填剤を入れて上顎洞の底の骨量を改善させます。サイナスリフトは、骨量がかなり少ない場合や、多くの歯を失っている場合に用いられる対処法です。
ソケットリフト
ソケットリフトはサイナスリフト同様、上顎骨の骨量が不足した場合に行われる治療法です。ただ、サイナスリフトと異なり、歯肉に切開を加えたり、上顎洞の側面の骨に穴を開けたりしません。そのため、ソケットリフトの方が身体的な負担が少なく、世界的にも多く用いられています。
ソケットリフトは、インプラント埋入時に、上顎洞の底を覆う粘膜(シュナイダー膜)を少しだけ持ち上げ、できた隙間に骨補填剤を入れて、骨量を確保します。サイナスリフトと比べると、ソケットリフトは骨量が相応にある場合や、埋入するインプラントの本数が少なくて済む場合などに用いられます。
インプラント治療の流れと治療期間のコラムでもお伝えしたように、町田歯科ではソケットリフトの症例が多数ありますので、お気軽にお問い合わせください。
骨質
続いて、今度は骨質について解説しましょう。実は、骨質という言葉には医学的な定義はありません。
インプラント治療においては、骨の硬さ、骨の強度という意味に捉えられています。整形外科では、骨の強度に加え、「骨折のしやすさ」という意味でも使われているようです。
骨質を決める要素
骨質を決めるのは、骨の成分や構造です。具体的には、骨のコラーゲン線維の量や石灰化の具合、骨の構造などが関わってきます。
石灰化が進むと硬くなり、コラーゲン線維の量が増えると軟らかくなります。
骨は外側の皮質骨(ひしつこつ)と内側の海綿骨(かいめんこつ)で構成されています。外側にある皮質骨は硬く、精密な構造をしていることから、緻密骨(ちみつこつ)や緻密質(ちみつしつ)とも呼ばれます。
一方、内部にある海綿骨は、小柱骨(しょうちゅうこつ)や海綿質とも言われ、線維成分が多く網目状になっており、比較的軟らかくなっています。
インプラント治療と骨質
では、インプラント治療において骨質はどう関係してくるのでしょうか。インプラント治療における骨質は、以下の4タイプに分類されます。
タイプ1 | 皮質骨が最も分厚く、言い方を変えるととても硬い骨です。 |
---|---|
タイプ2 | タイプ1よりも皮質骨の量が減り、海綿骨が多くなります。 |
タイプ3 | 皮質骨と海綿骨のバランスが良い状態。硬すぎず、軟らかすぎない骨質です。 |
タイプ4 | 海綿骨がほとんどを占め、皮質骨は骨の外側を薄く覆う程度です。 |
硬すぎるとインプラントが入りにくく、反対に、軟らかすぎると安定しづらくなります。このため、インプラントに適した骨質は、硬すぎず、軟らかすぎないタイプ3とされています。
総合的な骨の状態の判断が大切
骨質は、エックス線写真でもある程度分かりますが、インプラント埋入時に、ドリルで骨に穴を開ける際の指先の感覚などでも判断していきます。
骨質のタイプ分類だけにとらわれることなく、インプラント治療では、総合的に骨の状態を判断することが大切です。
上顎と下顎の骨質の差
実は同じ人でも、上顎骨と下顎骨では骨質に差があります。一般的に上顎骨は海綿骨の割合が多く、下顎骨は皮質骨の割合が多い傾向があります。
上下の歯を噛み合わせた時に加わる力を、上顎骨は頭蓋骨全体で受け止めることができるのに対し、下顎骨は下顎骨だけで受け止めなければなりません。この違いにより、下顎骨は頑丈に作られていると考えられています。
この頑丈さのため、下顎骨の方がインプラントの成功率が高くなる傾向があります。
最適な骨量と骨質がインプラント成功のカギ
今回は、骨量や骨質について解説しました。骨量や骨質が最適なバランスを保っていることが、インプラント治療を成功させるポイントであるとご理解いただけたのではないでしょうか。
町田歯科では、インプラントを成功させるために、精密な検査の下、埋入する部分の骨の状態にも細心の注意を払いつつ、インプラント治療にあたっています。
骨量不足が認められれば骨量を確保する処置も行なっていますので、骨の状態などに不安のある方、骨量不足を指摘されたことのある方は、町田歯科でお気軽にご相談ください。