加齢や歯周病に伴い、歯の根が見えてくると、歯の表層のエナメル質ではなくセメント質と呼ばれる部位が見えてきます。
セメント質はエナメル質より酸に弱く、露出部位は汚れの付着が多くなりがちです。結果として、虫歯になりやすくなります。
無症状で進行することもあり、「気づいた時には大きくなっていた」ということも決して珍しくありません。今回は、根面う蝕という虫歯に対する基礎知識、治療や予防について知っていただき、日々の生活に役立てていただければと思います。
高齢者の根面う蝕
根面う蝕(こんめんうしょく)とは、歯の根の部位にできる虫歯を指します。歯の根はセメント質という構造で覆われており、歯冠(しかん:歯の頭の白い部位)にあるエナメル質よりも酸に弱いことが知られています。
若年者は、歯根が見える心配があまりありません。しかし高齢になるにつれ、生理的に歯茎が下がる場合や、歯周病になって歯茎が下がる場合があります。
歯茎が下がってくると、やがて歯根(しこん:歯の根っこ)が見えてきてしまいます。歯根の表面はツヤツヤしているのではなく、ザラついていて汚れが停滞しやすく、歯磨きもしにくいのです。そのため、根面う蝕になりやすくなります。
根面う蝕は進行しやすいものから、ゆっくりと経過を見るものがあります。また、根面う蝕になると、色は褐色や黒色になるなど、正常な歯根の色から変色してしまうことも多いです。
寝たきり・認知症の患者さんは特に注意を
特に、寝たきりの患者さんや認知症の患者さんでは、根面う蝕になっている歯が、食事の時や歯ぎしりなどの強い力によって折れてしまうことがあり、誤飲や誤嚥(ごえん:食物などが誤って喉頭・気管に入ってしまうこと)のリスクにつながるので、注意が必要です。
根面う蝕の治療
治療上の難点
根面う蝕は、範囲の特定が困難な場合があります。色が変わっている部位を全て取り除こうとすると、神経を取ることにつながりかねないので、慎重に治療方法を選択しなくてはなりません。
一般的に根面う蝕は、歯茎に近い部位や歯茎の下に虫歯が存在することが多いのですが、虫歯の治療でよく行われるレジン充填治療(コンポジットレジンというプラスチック素材を歯に詰める治療)では、唾液や水分が処置中に入ると失敗してしまいます。
根面う蝕は、レジン充填が行いにくい場所にあるため、治療が難しくなるケースがあるのです。
実際の治療法
治療方法は、削って詰める治療と削らずにマネージメントする治療に大別されます。削って詰める治療は一般的な虫歯の治療方法と変わりません。先ほど挙げたレジン充填や、フッ素を含み、歯への接着性もあるグラスアイオノマーというセメント(GIC)を充填する処置も検討します。
削らない治療
町田歯科では、虫歯治療のページでお伝えしているとおり、無駄に削らない治療を重視しています。現在では、不用意に歯を削らずに再石灰化を促し、根面う蝕をマネージメントすることが一つの方法として挙げられており、これは日本歯科保存学会も提唱しています。
つまり、削ることによるデメリットが多いのであれば、むしろ「虫歯の進行を抑制する」「虫歯の活動を低下させる」ことに重きが置かれているのです。
この削らずにマネージメントする方法としては、ご自身で行えるものと、歯科医院で行うものがあります。ご自身で日頃のケアとして行うなら、フッ化物配合の歯磨き粉やマウスウォッシュを使うのが良いでしょう。
フッ化ジアンミン銀の活用
歯科医院で行うものとしては、フッ化ジアンミン銀を使用する方法があります。フッ化ジアンミン銀配合の薬剤はサホライドと呼ばれ、以前よりお子さんの虫歯治療に用いられてきました。フッ化ジアンミン銀には、銀による抗菌作用と、高濃度のフッ素によって歯を強くする作用があり、虫歯の進行を抑える効果が望めます。
ただし、フッ化ジアンミン銀を塗った虫歯の箇所は黒く変色し、歯磨きなどでは落とせません。そのため、見た目という点では劣ります。しかし、長時間の治療が難しい高齢者や、寝たきりになってしまった方などには、歯を削ったり、根管治療を行う必要もないため、有効な治療法と言えるでしょう。
根面う蝕の予防
冒頭でもお話ししたとおり、根面う蝕は歯の根が露出することをきっかけとして起こります。年齢を重ねると、残念ながら生理的にも歯茎は下がってしまいますが、歯周病になると歯茎が著しく下がる原因になりますので、注意が必要です。
日頃の歯磨きが基本
そうならないためにも、日頃から気を付けるのは、やはり歯磨きです。しっかりと汚れを落とすことも大切ですが、歯茎に必要以上の負荷をかけていないことも重要です。
歯茎に余計な力が入っていると、歯茎が下がる原因になりますので、歯磨き方法に自信がない場合は、歯周病や虫歯のチェックも含めて、歯科医院で一度確認してもらうようにしましょう。
フッ化物の効果
加えて大切なことは、フッ化物の利用です。治療法の箇所でもお伝えしましたが、フッ素は虫歯予防にも役立ちますし、う蝕全般に有効であり、歯質の強化にもつながります。
定期的な歯科検診でいつまでも健康な歯を
今回は、根面う蝕の原因や治療法、予防法についてお伝えしました。治療については、「虫歯は削って治す」と考えていた方にとって意外だったかもしれません。
根面う蝕は、一般的な虫歯の治療とはまた異なる方法を採ることがあります。加齢とともに、ある程度歯茎が下がるのは避けられませんが、歯周病などに罹患してしまうのは良くありません。
歯を長く健康に保つことができれば、年齢を重ねてもQOLの向上に役立ちます。虫歯や歯周病の状態や、歯磨きが正しくできているかの確認のため、ぜひ定期的に歯科検診を受けることをお勧めします。町田歯科では歯のメインテナンスを重視しておりますので、シニアの方もお気軽にご相談いただければと思います。