口腔外科とは、口の中や顎、顔面における病気や外傷の治療を専門に扱う診療科です。歯だけでなく、顎骨や顎関節、神経、骨、舌、粘膜などにおけるさまざまなトラブルに対応します。例えば、親知らずの抜歯や顎関節症、転倒や交通事故によるの治療などがその一例ですね。
外科処置を必要とする幅広い疾患や外傷に対応するために、歯科口腔外科では的確な診断能力と高度な技術が求められます。そこで近年注目されているのが、画像処理技術とロボット工学を組み合わせたコンピューター支援手術です。
コンピューター支援手術とは?
コンピューター支援手術は、医学と工学の融合による共同研究から発展してきた先端技術です。その代表例が、CTによる三次元画像の活用です。
それまで主流だった二次元(2D)の画像が三次元(3D)化することで、人体内部の様相が画像情報として正確に把握できるようになりました。
そして、この技術の進化をきっかけに、ドイツの大学で手術支援システムの開発がスタートしたのです。当初は患者に見立てた3Dモデルを使って手術のシミュレーションを行っていましたが、現在は手術中の臓器の動きや変化を反映したナビゲーションシステムの開発が進んでいます。
画像情報を用いて術者を支援するナビゲーションシステムは、口腔外科医にとっての「目」や「手」となり、手術をサポートします。今後はさらなう技術の進化とともに、手術の正確性や安全性の向上が期待できるでしょう。
コンピューターテクノロジーが活躍する手術
口腔外科では、次のような場面でコンピューター支援手術が使用されています。
インプラント手術
コンピューターの手術支援が最も広く行われているのが、インプラント治療です。歯科用CTで撮影した患者データを専用のソフトウェアで解析し、コンピューター上でインプラント手術のシミュレーションを行います。
埋入するインプラントの長さ(サイズ)や位置、角度などを事前に計画できるほか、神経や血管の位置を把握することで、より安全性の高い手術計画を立てることができます。町田歯科では、世界シェアNo.1のインプラントメーカーであるストローマン社のシステムを導入しています。
そして、シミュレーション結果に基づいて作成するサージカルガイドにも先進のコンピューター支援技術が活かされています。サージカルガイドとは患者さん専用の手術用マウスピースで、コンピューターがインプラントを埋め込む位置や角度を設定します。
手術当日はガイドに従ってインプラントを埋め込むことで、歯茎や骨へのダメージを最小限に抑えることができ、より正確で安全に手術を行えるようになります。
インプラントについては、各テーマに基づきコラムでも多く取り上げておりますので、興味のある方は併せてご参照ください。
顎矯正手術
顎矯正手術は、顎の骨格の大きさや形、位置関係に異常が生じ、噛み合わせに不具合をきたす顎変形症の治療として行われる外科手術です。顎の骨格を適切な状態に整えることを目的としています。
顎矯正手術のコンピューター支援は、CTで撮影したデータから3Dモデルを作製から始まりました。当時は3Dモデルを使って手術のシミュレーションを行っていましたが、実際に切断するのは大変手間がかかるものです。この課題を解消するために、手術のシミュレーションソフトが開発されたのです。
シミュレーションソフトを活用することで、実際の切断が不要になるだけでなく、手術後の顔貌を含めた形や骨の移動量の予測ができるようになりました。最近では、歯並びについても合わせて想定できるようになり、シミュレーションの精度がますます向上しています。
顎骨再建手術
顎骨再建手術(がっこつさいけんしゅじゅつ)は、ケガや悪性腫瘍(がん)などで顎の骨を大きく失った場合に、顎の元の形や機能の回復を目指す手術です。
従来は金属製のプレートを使用していましたが、現在は骨を移植する方法が主流となっています。移植した骨の上にインプラントを埋め込むことにより、歯の機能を回復させることも可能になりました。
より精度の高い再現が可能に
顎骨は複雑な形状をしていることから、金属製プレートや移植骨を顎の骨の形に合わせて加工・固定するのは極めて困難です。そのため、術後の仕上がりは術者の経験と熟練度に大きく左右されていたのです。
現在は、コンピューター技術の活用により、シミュレーションソフト上で顎骨の状態を再現し、それを元に3Dモデルを製作できるようになりました。さらに、手術前に金属製プレートを作成できるようになったことで、より精度の高い手術が実現できるようになっています。
骨を移植する際も、シミュレーションソフトを使ってガイドを設計し、そのガイドに合わせて骨を採取することで、正確に骨を固定することが可能となりました。
コンピューター支援手術の未来
現在、口腔外科のコンピューターによる手術支援のために、複合現実(MR)ゴーグルの導入が研究されています。MRとはMixed Reality(ミックスドリアリティ)の略で、現実世界と仮想世界を融合させて同時に体感できる技術のことです。
MR(複合現実)とは
複合現実とは、私たちが見ている現実の世界にコンピューターグラフィックを投影して表示するテクノロジーです。例えるなら、飛行機や車のヘッドアップディスプレーのようなものです。
皆さんもMeta社のMeta Questや、Microsoft社のHoloLensなど、ゴーグルタイプの製品をご存じかもしれません。コンピューター支援手術では、このような形をした手術用MRゴーグルの導入が考えられています。
MR(複合現実)の利点
現在のコンピューターの支援手術は、CTデータに基づく3Dモデルの作製と、シミュレーションソフトが中心であり、術後の経過については、今までと同じく執刀医の経験と熟練度に大きく依存しています。
研究されている手術用の複合現実のテクノロジーでは、執刀医が装着したMRゴーグルを通して、手術を受けている患者さんの上に、CTなどの画像データを投影させて見ることができます。
目視では見えにくい隠れた血管や神経も色分けされてわかりやすく表示されますし、切除範囲も明示されます。血管の上流が明瞭になることで、止血しやすくなりますし、神経を傷つけるリスクも大幅に減らすことも可能です。
このようなMR技術が実際の手術に導入されれば、口腔外科における手術の安全性と精度は飛躍的に向上するでしょう。
MR(複合現実)の難点
コンピューター支援手術は、顎矯正手術の3Dモデルなどの治療に保険診療が認められていますが、MRについては研究段階のため、保険診療への導入は未定です。導入コストもより高額になることが予想されます。
また、ゴーグルの重量も課題のひとつです。手術の種類によっては8時間以上かかることもあるため、重いゴーグルを長時間装着することで、首に負担がかかり、術者の疲労につながる可能性があります。
手術の安全性や精度の高さと、コストや術者にかかる負担のバランスが取れるかどうかがポイントになると言えるでしょう。
テクノロジーの進歩によって実現する歯科医療の未来
今回お伝えしたように、口腔外科の分野において、コンピューターを使った手術支援が盛んに研究されています。術者は先進技術を活用することで、より効率的で質の高い治療を提供できるようになっていくでしょう。
現在は、CTデータを使ったシミュレーションによるガイド手術が一般的ですが、将来はそこにMRが組み合わさり、執刀する歯科医はゴーグルをつけて手術に臨むような未来が待っているかもしれません。
町田歯科は、デジタルを活用した歯科技術の習得に努め、最新の歯科治療についてのキャッチアップも積極的に行っております。その姿勢に基づいて蓄積された知見を患者さんの治療に活かしておりますので、先進の治療法に興味がある方も、町田駅すぐそばの町田歯科にお気軽にご連絡ください。