矯正治療で大切なのは、歯のサイズと顎の骨格のバランスです。アンバランスな場合、そのままでは歯をきれいに並べることができません。
そんな時、以前ご紹介した便宜抜歯という方法でバランスを整えることが多くなります。ただ、歯のサイズと顎の骨格のバランスを整える方法は、便宜抜歯以外にもあります。
その一つに挙げられるのが、IPRです。とはいえ、IPRとはなかなか聞き慣れない言葉ですよね。そこで今回は、歯のサイズと顎の骨格のバランスを取るためのIPRについてお話しします。
歯と顎のバランス
冒頭で「歯のサイズと顎の骨格のバランスが大切」と書きました。違う言い方でご説明すると、凸凹とした歯並びをきれいに整えるために関係しているのは、歯の大きさと歯を並べるスペースということになります。
もう少し具体的にお伝えしましょう。黄色い線の部分をご覧ください。前から数えて5番目の歯を第二小臼歯と言いますが、右の第二小臼歯から左の第二小臼歯までの歯の横幅の合計値と、歯を並べたい顎の大きさを比較します。
歯の横幅の合計値が、顎の大きさより小さければ、全ての歯が顎に収まるため、歯をきれいに並べることができます。しかし、歯の横幅の合計値の方が大きければ、顎に収まりきらないことになり、そのままでは歯をきれいに並べることはできません。
多くの場合、顎の方を大きくすることは難しいので、歯の横幅の合計値を小さくして対応します。その方法が便宜抜歯であり、今回のテーマでもあるIPRなのです。
IPRとは?
それでは今回の本題であるIPRについて解説していきましょう。IPRとは、InterProximal Reductionの略で、隣接面という歯と歯の間の面を削る処置のことを指します。ディスキングやストリッピングとも呼ばれます。
ただし、削ると言っても、虫歯治療で歯を削るようなイメージではありません。歯の表面を覆うエナメル質を0.2~0.4mm程度の厚みで薄く削るだけです。
したがって、歯の形もほとんど変わりませんし、エナメル質のごく一部だけを削るので、虫歯になったり、歯がしみるリスクもほとんどありません。
IPRでの歯の削り方
IPRで歯を削る方法は、
- 専用のヤスリで削る
- バーで削る
- ディスクで削る
の3つが挙げられます。
ヤスリで削る方法は、手でヤスリを持って少しずつ削っていきます。バーで削る方法は、虫歯治療と同じようなイメージですね。ただし、かなり細いバーを使います。削る量は、バーの大きさで調整します。
ディスクで削る方法は、バーの代わりに円盤状の道具で歯を削ります。こちらもやはりディスクの厚みに色々なサイズがあり、ディスクを使い分けて削る量を調整します。
エナメル質を削っても大丈夫?
虫歯治療とは違うと言われても、やはり歯を削るのは気になるものですよね。でもご安心ください。歯の表面を覆っているエナメル質ですが、その厚みは2mmほど、薄いところでも1mmほどあります。
もちろん噛み合わせの状態によっては、すり減って薄くなっている箇所もありますが、IPRで削るのは隣接面だけですから、極端にすり減っているということはまずありません。
例えば0.5mm弱削ったとしても、エナメル質は十分残っているので問題はないのです。
IPRで得られる歯並びのスペース
IPRで削る量は0.2~0.4mmだけですが、削る本数が増えれば、得られる歯並びの余裕も増えることになります。もし、第二小臼歯までの10本にIPRを0.2mmずつ施せば、4mmほどのスペースが得られる計算になります。
この範囲で歯を並べられるなら、抜歯しなくても歯並びを整えられます。
IPRの流れ
それでは実際のIPR治療の流れをご説明します。
1.ウェッジを入れる
歯と歯の間にウェッジと呼ばれる器具を入れて、歯と歯の間を広げつつ、歯肉を保護します。
2.歯を削る
IPR治療を行います。上述のとおり、歯と歯の間の隣接面を、コンタクトメジャーを使って計測しながらごくわずかに削ります。
3.歯を磨く
もちろん削ったら終了ではありません。IPRで削った面を磨き、滑らかな状態に整えます。
IPRのメリット
治療の流れをご説明したところで、IPRのメリットについてご紹介しましょう。
抜歯しないで歯並びを整えられる
やはりIPRの一番のメリットは、歯を抜かずに歯を並べるスペースを確保できることです。歯を抜くと、もう元には戻せないので、抜歯しなくても良いというのは、かなり大きな利点になります。
後戻りの予防
本来、歯は「点」で隣同士の歯と接触しています。IPRを受けると、接触する箇所が「点」から「面」に変わります。
「点」より「面」の方が接触域が広いので、隣同士の歯でしっかりと支え合えるようになり、矯正治療後の後戻りが少なくなると言われています。
麻酔が不要
便宜抜歯では、歯を抜くわけですから局所麻酔が欠かせません。しかしIPRなら、歯の表面を一層薄く削るだけなので、局所麻酔は必要ありません。
IPRのデメリット
もちろんIPRにはメリットだけでなく、デメリットもあります。こちらもきちんとご説明しましょう。
歯を削る
お話ししたとおり、IPRで削る歯の量はごくわずかです。しかし、削ることなく矯正できるのを理想とするなら、やはり微量とはいえ、歯を削る処置を伴うのはデメリットと言えるでしょう。
一度削った歯は元に戻りません。歯を抜くほどの影響はありませんが、たとえエナメル質だけであっても、歯を削らなければならないのはIPRのデメリットになります。
得られるスペースに限界がある
これも上述のとおり、IPRで削る量は0.5mmもありません。たくさんの歯をIPRで削ることで、広いスペースを得るわけですが、残念ながら抜歯して得られるスペースには及ばないのも事実です。
このため、歯を並べるために必要なスペースがかなり不足しているようなケースでは、IPRでは対応が難しいことがあります。
歯肉への影響
IPRで歯を削ると、それだけ歯の根と根が近くなります。歯の根と根が近づき過ぎた場合、歯肉の炎症を起こすこともあります。
歯間分離の痛み
「IPRの流れ」でもご説明しましたが、IPRを行う時、歯肉を傷つけたりしないように、歯と歯の間にウェッジというくさびのようなものを入れて、歯と歯の間を一時的に軽く広げます。この時、軽い痛みを覚えることがあります。
IPRの特徴を理解して、適切な矯正治療を
今回は、歯を並べるスペースを確保する方法の一つであるIPRについてお話ししました。再度まとめますと、歯の隣接面のエナメル質を薄く削るIPRは、抜歯や麻酔も必要なく、矯正後の後戻りも少ないのが特徴です。
確かに歯を削らなくてはなりませんが、歯を抜かなくて済むのは大きな利点です。ただし、得られるスペースには限りがありますので、歯と顎のバランスに大きな差があるような場合は使えません。
このため、IPRで対応できるかどうかの判断は慎重に行う必要があります。町田歯科は、矯正治療の特設サイトでもお伝えしているとおり、専門医が在籍し、様々な矯正治療の経験が豊富な歯科医院です。
今回ご説明したIPRはもちろん、患者さんひとりひとりに合った方法で矯正治療を行いますので、歯並びが気になる方は、町田歯科にぜひご相談ください。