「最近、なんだか歯がしみる…」
「歯が薄くなっているような気がする…」
「歯医者さんで、歯が溶けていると言われて驚いた…」
もしあなたが、胸焼けや酸っぱいものが喉に上がってくる感覚(呑酸:どんさん)に心当たりがあり、同時にお口の中にこのようなトラブルを感じているなら、それは胃食道逆流症(GERD:Gastro-Esophageal Reflux Disease)が原因かもしれません。
胃食道逆流症(GERD)は、一般的に胃や食道の病気だと思われがちですが、実はお口の健康に影響を及ぼすことがあります。
今回は、意外と知られていない胃食道逆流症(GERD)と歯の関係について解説していきます。心当たりがある方は、ぜひ最後まで読んで、ご自身のお口の健康チェックに役立ててくださいね。
胃食道逆流症(GERD)とは

胃食道逆流症(GERD)とは、胃の中にある胃酸や消化中の食べ物が、食道や口の方へ逆流してしまう病気です。この逆流によって食道の粘膜がただれて炎症を起こすと逆流性食道炎と診断されます。
食道と胃の接合部には、下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)があり、食事のとき以外は胃の入口を閉じて胃の内容物が食道に逆流しないように防いでいます。
しかし、この下部食道括約筋が緩んでしまうと、胃から食道へ内容物と胃酸が逆流してしまうのです。
下部食道筋が緩む原因

下部食道筋が緩む原因には次のようなものがあります。
- 加齢による筋力の低下
- 食べすぎや早食いにより、胃が膨れることによる圧力が高まり
- 肥満、妊娠、便秘、姿勢などによる腹部の圧迫
- 食事内容
- 薬の副作用
- 食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア
「自分は若いから大丈夫」と思っていても、早食いや大食いでも胃食道逆流症(GERD)になり得るので、食生活には気を付けましょう。
胃食道逆流症(GERD)による歯への影響
胃の病気と歯の病気…一見すると関係がないように思えるかもしれません。しかし、胃酸が逆流することで口の中が酸性になり、歯が溶かされてしまうことがあります。
酸蝕症を引き起こす

歯が溶ける?酸蝕症(さんしょくしょう)ってなに?のコラムで解説しましたが、酸蝕症とは、虫歯菌が出す酸ではなく、飲食物や胃液などの「酸」によって、歯が化学的に溶かされてしまう病気のことです。
通常、お口の中は唾液の働きによって中性(pH7.0付近)に保たれています。しかし、酸性の物質がお口に入るとpHが下がり、酸性になります。
歯は鉄より硬い?のコラムでお話ししたとおり、歯の表面を覆っているエナメル質は、人体で最も硬い組織と言われていますが、実は酸には非常に弱く、pHが5.5を下回ると溶け始めます。これを脱灰(だっかい)といいます。
ここで問題になるのが酸の強さです。
胃酸の酸性度は非常に高い

私たちが普段口にするものでも、コーラやスポーツドリンク、柑橘類などは酸性が強い(pH3~4程度)ため、摂りすぎると歯が溶ける原因になります。
しかし、胃液(胃酸)の酸性度は別格です。pHは1.0~2.0という強酸になります。これは塩酸に匹敵する強さで、お口の中に入ってくれば歯のエナメル質などひとたまりもなく溶かされてしまうのです。
酸蝕症になると、歯が全体的に丸みを帯びたり、薄くなって先端が透けて見えたりします。エナメル質を失った歯は非常に無防備になり、虫歯になりやすくなるだけでなく、冷たいものがしみる知覚過敏の症状も引き起こします。
「酸っぱいものや酸性の飲料は摂っていないのに歯が溶けている」という場合、この胃酸の逆流である可能性が高いのです。
ブラキシズム(歯ぎしり)を引き起こす

胃食道逆流症(GERD)が原因で睡眠の質が低下し、その結果ブラキシズム(歯ぎしり)が起こっている可能性もあります。
また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA※)の患者さんにも頻繁に胃食道逆流症(GERD)がみられます。ブラキシズムに悩んでいる人は胃食道逆流症(GERD)がないかどうか調べてみるといいかもしれません。
(※)睡眠時無呼吸症候群(SAS)については、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と歯科の関係のコラムで詳しく解説しています。興味のある方は併せてご参照ください。
歯科での胃食道逆流症(GERD)への対応は?

胃食道逆流症(GERD)は胃のむかつき、喉の違和感、飲み込みにくさに加え、お伝えしたような酸蝕症による歯の脱灰、ブラキシズムによる歯の咬耗(こうもう:歯がすり減ってしまうこと)など、歯にも影響が出ます。
もちろん、基本的に胃食道逆流症(GERD)は内科や胃腸科での治療が必要です。ただ、歯科での治療が必要なこともあるので、違和感がある場合は歯科の受診、または定期健診を受けることをおすすめします。
以下では、歯科で行われる主な対応について解説します。
酸蝕症の治療

酸蝕症によって失われた歯質は、自然には元に戻りません。そのため、これ以上進行させないための予防処置と、症状が出ている部分への対症療法が中心となります。
行われる治療としては、以下のようなものが挙げられます。
高濃度フッ素塗布
酸に負けない強い歯を作るために高濃度のフッ素を塗布し、歯の再石灰化を促進します。
知覚過敏への処置
しみる症状が強い場合は、露出した象牙質をコーティングする薬剤を塗布します。
詰めものによる修復
歯が大きく溶けて凹んでしまった場合は、コンポジットレジン(プラスチック製の詰めもの)などで形を修復し、象牙質を保護します。
ブラキシズム(歯ぎしり)の治療

ブラキシズムを放っておくと、歯が削れることがあります。歯が削れると、咬む位置がずれたり、歯周病や知覚過敏が進行する等悪影響が出てきます。
ブラキシズムの治療は、就寝中に装着するナイトガード(マウスピース)が一般的です。装着することで歯と歯が直接擦れ合うのを防ぎます。これは胃酸によるダメージを受けている歯を物理的にガードする意味でも有効です。
また、噛み合わせのずれが大きい場合は、噛み合わせの調整を行うこともあります。
歯ぎしりやナイトガードについては、歯ぎしりや食いしばりの種類と治療法や、寝ている時の歯を守るマウスピース(ナイトガード)のコラムをご参照ください。
胃食道逆流症(GERD)から大切な歯を守るために

胃食道逆流症(GERD)は、加齢やストレス、食生活など、日常のさまざまな要因が重なって引き起こされます。
お伝えしたように、特に、強い酸性の胃液が歯を溶かす酸蝕症(さんしょくしょう)や、睡眠の質が低下することで誘発される歯ぎしりには注意しなければなりません。
胸焼けや呑酸(どんさん)といった症状に加え、歯のすり減りや知覚過敏が気になる場合は、内科だけでなく歯科でのケアもご検討ください。今回のコラムをお読みになって、気になる点やご質問がある方は、どうぞお気軽に町田駅すぐそばの町田歯科までご相談ください。
参考文献
- 睡眠時ブラキシズムの新たな関連因子
- 口腔保健・予防歯科学(医歯薬出版株式会社)








