以前、お子さんの歯の生え変わりの時期に注意することについてコラムでお伝えしましたが、今回はそもそも歯が生え変わる仕組みについてお話ししましょう。
私たちの歯は、乳歯から永久歯へと一回だけ生え変わります。そして乳歯と永久歯を比べてみると、一般的に永久歯の方が大きくなります。
しかし、よく考えると不思議に思えませんか?今まであった乳歯よりも大きな歯に生え変わるのに、どうして歯がきれいに並ぶのでしょう?
実はそれを考えると、永久歯の歯並びが凸凹になる理由もわかります。人間の体には、乳歯よりも大きな永久歯が並ぶスペースを、確保するための仕組みがあるのです。
前歯と側方歯
永久歯が並ぶスペースの確保に関係しているのが、乳歯、永久歯のそれぞれの前歯(ぜんし)と側方歯(そくほうし)です。
前歯と側方歯とは?
上の図をご覧ください。前歯は、乳歯では乳中切歯(にゅうちゅうせっし)、乳側切歯(にゅうそくせっし)、永久歯では中切歯(ちゅうせっし:真ん中の歯)、側切歯(そくせっし:中切歯の隣の歯)を指します。
側方歯は、乳歯では乳犬歯(にゅうけんし)、第一乳臼歯(だいいちにゅうきゅうし)、第二乳臼歯(だいににゅうきゅうし)、永久歯なら犬歯(けんし:側切歯の隣の歯)、第一小臼歯(だいいちしょうきゅうし:前から4番目の歯)、第二小臼歯(だいにしょうきゅうし:前から5番目の歯)です。
6歳臼歯は…?
ここで、お子さんの歯の生え変わりの時期に注意することのコラムでも取り挙げた第一大臼歯、いわゆる6歳臼歯が含まれないことが気になった方もいるかもしれません。第一大臼歯(6歳臼歯)は虫歯になりやすく、注視すべき歯としてご紹介しました。
実は第一大臼歯(6歳臼歯)は、先に生えている乳歯がない歯なので、永久歯のスペース確保の仕組みには、直接的に関係していないのです。
第一大臼歯(6歳臼歯)の後ろに生える第二大臼歯(12歳臼歯)も同様で、第三大臼歯は、いわゆる親知らずであり、生えない方もいらっしゃいます。
このように、歯の生え変わりについて関わってくるのは前歯と側方歯のため、以降では、前歯と側方歯の生え変わりの仕組みについて、お話ししていきましょう。
前歯がきれいに生え変わるには?
冒頭でもお伝えしたとおり、前歯の乳歯と永久歯を比べると、永久歯の幅の方が乳歯よりも大きくなります。このため、単に乳歯が永久歯に置き換わるだけでは、永久歯の生えるスペースは不足してしまいます。
前歯部には、次に挙げる3つの仕組みが備わっており、永久歯の前歯がきれいに並ぶようになっています。
乳歯の歯並びの隙間
まず挙げられるのが、乳歯の歯並びの隙間です。永久歯の歯の隙間は良くないのですが、乳歯の隙間は、永久歯の生え変わりにとって大切です。
乳歯の前歯の隙間は、上顎・下顎それぞれに5箇所あります。各々の隙間を合計すると、上顎で2.5mmほど、下顎で2mmほどになります。この隙間を利用して、大きな永久歯が生えてきます。
もし、これよりも隙間が少ない場合、もしくは隙間が全くない場合は、永久歯の前歯が生えるスペースが不足して、前歯の歯並びが凸凹になる可能性が出てきます。
前歯部での骨の拡大
歯が生え変わっていくのにつれて、歯が並ぶ骨も大きくなっていきます。
お子さんの骨がどれくらい大きくなるかを計測するのは難しいので、乳歯と永久歯、各々の前歯の横幅を合計し、そこから算出すると、平均で上顎で3mmほど、下顎で4mmほどになります。
永久歯を見ると、上顎の中切歯(真ん中の前歯)の大きさが目立つので、上顎の骨の方が大きくなると思われそうですが、意外と下顎の方が大きくなるのです。
前歯の前方への移動
顎の骨が大きくなるにつれて、永久歯の前歯自体も乳歯より前に移動します。
どれくらい前に移動するのか、歯の先端部分の位置を比べてみると、上顎で4〜4.5mm、下顎で2〜2.5mmほど前に移動しています。
永久歯の前歯と乳歯の前歯では、歯の傾きにも差があり、永久歯の方が前に傾いています。もちろん、極端に傾くわけではないのですが、それを差し引いて考えても、かなり前に動いていることがわかります。
側方歯がきれいに生え変わるには?
側方歯が生え変わる時期(側方歯交換期)は、永久歯の並ぶ余地があるかどうかがはっきりしやすい時期でもあります。
側方歯交換期に備わっている、側方歯の生え変わりの仕組みで大切なのは、リーウェイスペースと生え変わりの順序の2つです。
リーウェイスペース
お話ししてきたように、乳歯と永久歯の大きさを比べると、永久歯の方が大きいと思われがちですが、実は側方歯についてはそうではありません。
もう一度冒頭の図を引用しましょう。乳歯の側方歯の横幅の合計値と、永久歯の側方歯のそれを比べてみると、乳歯の方が大きいのです。
この大きさの差をリーウェイスペースといいます。上顎の片側で1mmほど、下顎の片側で3mmほどあります。
わずかな差ですが、この差がないと、第一大臼歯(6歳臼歯)が前に寄ってしまうので、永久歯の側方歯が生えるスペースが足りなくなるのです。
生え変わりの順序
側方歯は、永久歯の前歯と第一大臼歯に挟まれています。この限られたスペースで生えかわらなければならないので、すでに生えている永久歯の位置の影響を受けます。
そこで重要になるのが、生え変わりの順序です。順番が乱れてしまうと、歯並びがきれいにならなくなってしまいます。
例えば、第二小臼歯の方が犬歯より早く生えてしまうと、第一大臼歯(6歳臼歯)が前に寄ってしまうので、犬歯が生えるスペースが足りなくなります。
永久歯がきれいに生え揃うために
今回は、乳歯から永久歯への生えかわりの仕組みについてお話ししました。前歯部と側方歯部で、永久歯のスペースを確保する仕組みに違いがあることを、ご理解ただけたかと思います。
それぞれ生え変わる仕組みがありますが、その一つでも欠けてしまうと永久歯はきれいに並びません。もしどこかに問題があれば、生え変わりを適切にサポートしないと、きれいな永久歯の歯並びは得られないのです。
どこに問題があり、どのような方法で解決するのが良いのか、その判断はとても重要です。前回、床矯正装置と機能的矯正装置について解説しましたが、お子さんの歯の状態を見極め、適切な矯正を行うのが大切です。
町田歯科は、お子さんの矯正治療の専門知識だけでなく、様々な知見を持った歯科医師と矯正医が在籍しています。お子さんの歯並びで不安やご質問がある方は、町田歯科でぜひご相談ください。