日本の医療の特徴は様々ありますが、その一つは国民健康保険などの公的医療保険制度が充実していることではないでしょうか。アメリカなどの外国では、公的医療保険がなく、ちょっとしたケガや病気でも、とんでもなく高額の治療費になってしまうという話は、皆さんも聞いたことがあるかと思います。
日本では、この公的医療保険のおかげで、ほとんどの治療を保険診療で受けられます。しかし、矯正治療はそうではなく、大半の矯正治療が保険診療で受けることができません。
「大半の矯正治療」としたのは、実は一部の症例については保険診療で矯正治療を受けられるからです。この保険診療で受けられる矯正治療については、案外ご存知ない方も多いと思われます。
そこで今回は、保険診療の対象となる矯正治療についてご紹介しましょう。
保険診療の対象となる矯正治療とは?
保険診療の対象となる矯正治療は、特定の条件に合う「噛み合わせの異常の治療」を目的とした矯正治療です。
「乱れている歯並びをきれいに整える」のではなく、「噛み合わせの異常の治療」であることがポイントです。なぜなら、特定の条件に当てはまる噛み合わせの異常は「病気の治療」とみなされるからです。
保険診療の対象となるための条件は、次の3つです。
1.厚生労働大臣が定めた病気が原因となる噛み合わせの異常
厚生労働大臣の定めた病気とは、お口に関係する生まれつきの病気のことを指し、実に50以上もあります。
さすがに全てをここで書くのは難しいですが、唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)やダウン症候群、筋ジストロフィーなど、比較的よく知られている病気も含まれています。
2.永久歯が3本以上きちんと生えてこないことによる噛み合わせの異常
これは「ただ3本以上の永久歯が生えてこない」ということではありません。顎の骨を開いて、歯を引き出す開窓(かいそう)手術をしなければ生えてこない場合に限られています。
3.顎変形症の手術前と手術後の矯正治療
顎変形症とは、顎の骨格の形、大きさ、位置などの異常により、噛み合わせの異常をきたしている病気です。
顎変形症では顎の骨格を改善するために、顎矯正手術(がくきょうせいしゅじゅつ)を行いますが、手術前と手術後に行われる矯正治療を保険診療で受けられます。
先に挙げた1.と2.に該当する方はあまり多くないですが、3番目の顎変形症の患者さんは、しばしばいらっしゃいます。
保険診療対象外の矯正治療
保険診療の対象外となる矯正治療は、歯並びを整えるための矯正治療や、将来の歯並びを整えるための矯正治療です。
具体的には、歯並びをきれいにする大人の方用の矯正治療や、成長発育段階にある子どもを対象とした矯正治療になります。いずれも審美的な目的も持ちますので、保険診療の対象外になっているのです。実際の矯正方法や事例、金額などについては、町田歯科の矯正情報特設ページでも解説していますので、ご覧ください。
保険診療で矯正治療を受けられる医療機関の条件
保険診療で矯正治療を受けられる医療機関は、厚生労働大臣の定めた施設基準に合う医療機関として、地方厚生局長が認めた保険医療機関でなければなりません。
詳しく言いますと、厚生労働大臣の定めた一定の条件をクリアし、「歯科矯正診断料」や「顎口腔機能(がくこうくうきのう)診断料」を算定することが認められた歯科医院です。
したがって、前述の条件にご自身が該当しそうだと思っても、受診した医療機関が指定医療機関でなければ、保険診療は受けることができませんのでご注意ください。
保険診療での矯正治療のメリット
それでは、保険診療で矯正治療を受ける場合の具体的なメリットについて、お話ししていきましょう。
治療費が抑えられる
当然のことながら、保険適用になれば治療費を抑えることができます。一般的な保険診療の自己負担割合である3割をもとに計算すると、矯正治療で医療機関にお支払いになる金額はおおよそ30万円程度になります。
もちろん30万円も大金ですが、一般的な矯正治療と比べると、大幅に治療費を抑えることができると言えるでしょう。
医療費控除を受けられる
国税庁では、医療費控除が受けられるかどうかの基準を公表しています。矯正治療においては、顔つきなどを美化するための治療費は、美容目的ということで医療費控除の対象としていません。
一方、噛み合わせを良くするなど、年齢や目的から病気の治療と認められる場合は、医療費控除の対象となります。
したがって、保険診療で矯正治療を受ける場合は、医療費控除の対象として認められます。ご本人だけでなく、保護者の方などが通院に同伴した際の交通費も医療費控除の対象ですから、忘れないように申告してください。
ただし、通院にマイカーを利用した際のガソリン代や、駐車場代は対象外ですのでご注意ください。
保険診療での矯正治療の難点は?
保険診療で矯正治療が受けられることにはメリットが多いのですが、実際の診療に際しては、もちろん難しい点もあります。
どこでも受診できるわけではない
先ほど申し上げたとおり、保険診療で矯正治療を受けられるのは、施設基準に合う医療機関だけです。矯正治療をしているところなら、どこでも受けられるというわけではありません。
手術が必要
これも先述のとおりになりますが、保険診療で矯正治療を受けられるのは、顎の骨格に異常があり、噛み合わせが良くない場合に限られており、顎の骨格を改善する顎矯正手術が不可欠です。
やはり顎矯正手術は、顎の骨格を切断して分離する手術ですから、術後の腫れや痛みも強いものです。
入院が必要
顎矯正手術は、外来で局所麻酔のもとで受けるような手術ではありません。入院したうえで全身麻酔をかけて行われるもので、決して軽度の治療とは呼べる類いではないのです。
もちろん一般的な矯正治療では入院することはありませんから、この点も保険診療の矯正治療ならではの特徴と言えるでしょう。
治療期間が長い
例えば、顎変形症の治療を保険診療で受ける場合、
- 術前矯正治療
- 顎矯正手術
- 術後矯正治療
- 保定処置
という流れで治療が進みます。そして術前矯正に2~3年、術後矯正には1年ほどの期間が必要です。詳しくは、顎変形症(がくへんけいしょう)についてのコラムで解説していますので、併せてご参照ください。
顎矯正手術がいつ受けられるのかによっても違いますが、全体の治療期間は5年程度になることが多いです。これに比べ、一般的な矯正治療は2~3年ですから、やはり治療期間が大幅に長くなる傾向があります。
保険診療の対象となる矯正治療の特徴を理解しておきましょう
今回は、保険診療で受けられる矯正治療についてお伝えしました。わかりやすくまとめますと、矯正治療では、顎変形症をはじめとする、一定の条件に当てはまる「噛み合わせの異常の治療」が保険診療の対象となります。
大人の方の歯並びをきれいにする矯正治療や、お子さんの将来の歯並びを整えるための矯正治療は、保険診療の対象外です。
町田歯科・矯正歯科は、顎変形症など様々な矯正治療の専門知識や、治療経験のある歯科医院です。もし、今回のコラムをお読みになって、ご自身が保険診療による矯正治療の対象になりそうだとお感じになった方は、お気軽にお問い合わせいただければと思います。